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食生活を豊かにした製パン業
製パン業を語るとき、必ず登場するのが、木村屋総本店の創業者、木村安兵衛である。安兵衛が芝日陰町(現JR新橋駅前)にパン店を開いたのは1869年であった。この店は「文英堂」といったが、翌年火事で焼失してしまい、京橋区尾張町(現銀座)で、屋号を「木村屋」として再出発する。

今日のパン生産では、パン生地の発酵にはイースト菌が使用されているが、当時はジャガイモ、小麦粉そしてホップを培養する酵母菌が使用されていた。だが、安兵衛は米糀だれで培養する独自の方法をつくり出した。

こうして小豆あんを包んだ焙焼パンが生産されたのが1874年で「アンパン」として売り出された。これが、日本人の食嗜好にも合って、翌年には明治天皇にも献上され、銀座名物の一つとなる。その後、木村屋からノレン分けした者たちが全国に広がっていった。

戦後のパン業界では、山崎製パンの創業者飯島藤十郎を忘れてはならない。会社創業は戦後であるが、それまでの直営店方式による流通体制から製造卸方式を導入するとともに、パン生産の機械化により、1950年代には千葉県市川市に量産設備を確立している。

56年に、飯島は単身でハワイからアメリカ本土に渡り、さらにヨーロッパまで、欧米のパン業界を視察している。この視察によって建設されたのが、当時東洋一といわれた杉並工場であった。この工場では、食パンラインのみならず、菓子パンや和菓子の量産ラインも整備された。量産化による良品廉価体制を進めたのであった。

飯島の功績は、自営業的なパン生産を工場化・量産化させたことであるが、これに加えて、この欧米視察において、欧米の製パン業者が、パンのみならず、ケーキ、ビスケットの生産も量産化しているのを発見した点である。飯島は「山崎の製品で一軒の店が成り立つ」ことをめざして製品の多様化を進めていった。このような製品の多様化戦略は、単に小売店サイドの問題だけでなく、メーカーサイドにおいても生産の季節性を取り除き、生産を平準化するうえで大きなメリットがあった。

戦後の混乱期に雨後の竹の子のごとく発生したパン屋は整理される。そして、業界も食パン、菓子パンを中心とした大手メーカーと、学給パンを中心とした中小メーカーに分化していく。

99年における市場規模は1兆3000億円といわれている。商品別の割合をみると、食パン49.4%、菓子パン30.5%、その他パン16.6%、学給パン3.5%となっている。主要メーカーには、山崎製パン、敷島製パン、フジパン、日糧製パン、第一屋製パン、神戸屋、木村屋総本店、伊藤製パン、進々堂製パン、明治パン等がある。



焼きたてパンと包装パン
表示がなくても添加物は使われている
近ごろは、街のパン屋や百貨店、スーパーのなかにあるパン屋(インストア・ベーカリー)の焼きたてパンが流行だ。コンビニまで焼きたてパンをあつかいだした。

一方、袋やラップに包まれたメーカーのパンは、添加物が多いとか新鮮でないといって敬遠されがちだ。しかし、本当に焼きたてパンが添加物が少なくて新鮮なのだろうか。

インストア・ベーカリーは、裸売りの商品なので、容器包装を対象としている添加物表示の義務がない。したがって、表示されていないからといって、添加物を使っていないわけではない。

パンによく使われる添加物のイーストフードや乳化剤を使っていない焼きたてパンは、ほとんどないだろう。ハム・ソーセージ、コロッケなどが入った惣菜パンや、まるでお菓子のようなデコレーションパンは、まさに添加物の宝庫だ。

表示義務がないのをいいことに、添加物の使い放題だ。もしも添加物表示の義務があったら、焼きたてパンのPOPは文字だらけになるだろう。ただし、コンビニの焼きたてパンは、包装しているので表示義務がある。

よく町で見かける無添加パンも、本当に無添加なのかどうか疑問だ。イーストの発酵を助けるイーストフードや、油脂を均一にしてなめらかな生地にする乳化剤を使わなくても、生地を改良して軟らかく香りのよいパンにするための臭素酸カリウムやシスチンは使っていないのだろうか。

イーストフードや乳化剤は表示対象だが、臭素酸カリウムやシスチンは最終食品に残らない加工助剤だという理由で表示が免除されているだけだから、実際は添加物は使っていることになる。無添加パンなどほとんどないといってよい。

焼きたてパンには、新鮮だというイメージがある。しかし、その場で小麦粉を練ってパン生地を作っている店が、いったいどのくらいあるのだろう。別の工場で作られた冷凍のパン生地をただ焼いているだけなら、いつ作られたパン生地かわかりはしない。

また、焼きたてパンは栄養成分も表示されていない。包装パンは、今や栄養表示が当たり前になりつつある。エネルギーから糖分や塩分の量まで、すべて表示してある。裸売りのパンがカロリー表示などしたら、ダイエット志向の女性は、真っ先に敬遠するだろう。

添加物どころか、どんな原材料を使っているかもまったくわからない裸売りのパン。しかも、どのくらいのカロリーなのかもわからない。おいしさは別として、そんな秘密だらけの裸売りのパンよりは、中身のよくわかる包装パンのほうが、はるかに安心だといえる。

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