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食品容器1.わが国では食品衛生法により、食品を製造する機械、器具から販売用の容器包装に至るまで、すべて食品と接触するものは法の対象とされ、営業上使用する器具および容器包装は、清潔で衛生的でなければならないこと、また、有害な物質が含まれたり付着したものは、販売、販売のための製造、輸入営業上の使用を禁止している。

そしてこれらを守るために、必要に応じ、製品、原材料について一定の規格・基準を定めることができる。また、規格・基準が定められた場合には、これに適合しないものの販売を禁止している。

器具および容器包装には、さまざまな素材が利用されている。それを大別すると、ガラス、陶磁器、ほうろう、金属紙、セロファン、ゴムおよびプラスチック(合成樹脂)などに分類できる。これらの素材には各々特性があり、使用目的に応じて特徴を生かすように使い分けることが大切である。

なお、器具および容器包装に関係する規格には、日本工業規格(JIS)、日本農林規格(JAS)、それに業界における自主規格があり、また、諸外国にも独自の規格があるなど、決して統一されてはいない。このため、輸入される外国製品にはわが国の規格に適合しないものもみられる。

現在、このような規格試験として、ガラス、陶磁器およびほうろうにおいては、鉛およびカドミウムの溶出試験が定められている。
一方、器具および容器・包装に関連し考えなくてはならないのが廃棄物問題である。容器・包装なども不要になればいわゆる「ゴミ」となる。レストラン、一般家庭から出される一般廃棄物は年間5,000万トンを越え、焼却などの中間処理やリサイクルを行っていても約1,300万トンは埋め立て処分されている。

プラスチック容器、特にポリ塩化ビニールは腐食されにくいばかりか焼却するとダイオキシン類の発生源となり、環境破壊物質として注目され、大きな社会・政治問題となっている。1995年6月には「容器・包装に係る分別収集および再商品化の促進に関する法律」が公布され、翌1996年4月から施行されているが、容器・包装については食品衛生上のみならず、環境問題としてもその扱いに十分配慮されなければならない。

2.材質の特性と衛生
ガラス
ガラスはケイ砂を主成分として、これにアルカリ成分や金属酸化物を加え、1,000~1,500℃で溶融したものである。一般的に食品用として使用されるガラスは、ソーダ石灰ガラスであるが、耐熱器具としては、膨張率の小さいホウケイ酸ガラス、結晶化ガラスなどが用いられる。ガラスは透明で、容器の内容物がみえることは、金属や陶磁器にない特徴である。一般に表面の硬度は大部分の金属よりも硬く、傷がつきにくい。

耐熱性があり、化学的にも安定といえるが、その反面、重く、衝撃や、急激な温度変化に弱く、表面に傷があると特に割れやすい。また、酸には強いが、アルカリには比較的弱く、成分中のアルカリ含有量が多いと、水中にアルカリ成分(含水ケイ酸マグネシウム)を溶出し、フレークスというガラス表面の風化現象を生じる。なお、鉛クリスタルガラスは輝きが美しく珍重されるが、酸化鉛を5~50%含有するため鉛を溶出することがある。

陶磁器
岩石が風化し微細化した粘土や陶土を成形し、焼成したものを陶磁器という。主成分はアルミニウムとケイ素の酸化物で、表面には釉薬と呼ばれるガラス質の皮膜がかけられ、彩色には顔料(重金属の酸化物または炭酸塩)が用いられる。彩色法には上絵付と下絵付があり、上絵付の製品には焼成温度や時間が不足し、重金属を溶出するものがある。

ほうろう
ほうろう製品は鉄器を下地として、表面に釉薬を塗り、750~850℃で短時間焼き付けたものである。このため表面は陶磁器のように堅く、化学的には強いが、いったん衝撃により釉薬カミ剥離したり、亀裂を生じると鉄が露出し、腐食する。耐熱性があるため加熱容器などに用いることができる。

金属
食品用の器具類には、鉄、銅、アルミニウム、合金としてステンレスが、さらに高級なものでは金、銀といった貴金属が利用されている。金属は、曲げても折れにくく、薄い板や細い線に加工でき、熱伝導がよいことから複雑な形をした器具類や缶、加熱調理器具、包装用箔(アルミ箔)など多方面に利用されている。しかし、金属の性質として食品の酸や塩類に侵されやすく、錆(サビ)を生じる。鉄の赤サビは深く内部まで侵食するが、黒サビやアルミニウムのサビは表面に密な保護膜を形成する。アルミニウムのサビを人工的につくったものがアルマイトである。

アルミニウムは軽く、加工しやすいが、一方、酸やアルカリ、塩類に弱いので、アルミ箔で梅干やレモンを包んではいけない。また、鉄はサビやすく重いため、使用上不便なこともあるが、鉄の供給源として貧血予防の点で有効である。
銅には緑青と呼ばれる数種類のサビがあるが、このうち、空気中の水分と二酸化炭素の作用で生じる緑色のサビは古くから毒性が強いとされてきた。このため銅製の器具は内部をスズメッキするものが多いが、最近の研究結果では、それほど毒性は強くないことが明らかになった。銅は、熱伝導のよいことからナベやフライパンなど加熱調理器具として優れており、また調理に際し、クロロフィルと銅錯塩をつくり、色を安定化する。

紙類
昔から包装材料として多く用いられてきた紙は、パルプを主原料とし、現在では、にじみ止めのための塗料、不透明にするためのタルクや炭酸カルシウムなどの充填剤が加えられている。またプラスチックフィルムやアルミ箔などと組み合わせ使用されている。特にポリエチレンで内面を加工した紙は、牛乳、ジュース類酒類など飲料用の容器としてガラスびんにかわり大量に使用されるようになっている。

紙類で食品衛生上注意することは、着色料や蛍光染料の溶出である。蛍光染料は増白効果を得るため、一般の紙に多く使用されているが、食品用として法的には認められていない。着色料は食品添加物として許可されているもの以外は使用が禁止されているが、最近では、溶出しないように加工されていることからほとんど問題はない。セロハンはパルプの主成分であるセルロースを再生してフィルム状にしたもので、透明で耐熱性、耐寒性があることから、紙と同様包装材料として多く用いられている。一方、耐水性、耐油性、耐酸性に劣ることから、最近ではプラスチックとラミネート(はり合わせ)して用いられることが多い。

ゴム
ゴムの木から得られる天然ゴムのほかに、化学合成されたブタジエンゴム、イソフ°レンゴム、シリコンゴムなど数種類のゴムがある。食品関係ではその弾性を利用して、密閉容器のシール剤(パッキン、ガスケット)、ホース、哺乳びんの乳首、へら、手袋などに利用されている。ゴムには加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、老化防止剤、補強剤、充填剤など添加剤を加え、耐熱性や耐油性、耐老化性を向上させている。一般にゴムは水に溶ける成分が多く、不純物として含まれる金属や発癌性のある加硫剤などの溶出が考えられるので注意が必要である。 

プラスチック(合成樹脂)
プラスチックとは、本来が可塑性を有するものという意味であったが、今日では一般に合成樹脂のことをいっている。プラスチックは単独では安定性や耐久性などに乏しく、コスト、生産性など実用的でない部分もある。このため各種の添加剤を加え、さまざまな加工を施して実用性を高め、われわれが日常接しているプラスチックができる。添加剤にはその使用目的により数100種の物質が使用される。
プラスチックの長所は、軽量で美しく、光沢がある、また腐食しない、成形しやすい、安価に大量生産できることなどである。欠点としては、使用温度に制約があり、静電気が発生し汚れやすく、傷つきやすいこと、ガス透過性などがあげられる。また、プラスチックは種類によりその特性が異なるため、使用するにはその特性を十分理解して扱う必要がある。例えば、耐油性のない容器に油を入れたり、炭酸飲料をガス透過率の大きい容器に入れてはいけない。

プラスチックの種類プラスチックは化学合成によりつくられた高分子化合物で、熱に対する変化を利用して、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂に分類される。現在食品用として20種余りのプラスチックが利用されている。代表的なプラスチックの特徴熱可塑性樹脂:加熱すると自由に形を変えられるが、冷却すると、そのままの形を保ち、再び堅くなるもので、線状高分子により構成される。
(例)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン,AS樹脂,ABS樹脂、ポリカーボネート、ナイロン、ポリメタアクリル酸など。
熱硬化性樹脂:加熱により樹脂の高分子が三次元の網目構造に結合し、再び加熱しても再成形できない。
(例)フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など。

3.プラスチックの安全性
プラスチック自体は高分子であるため、一般に化学的に不活性であることから安全性はほとんど問題ない。しかしながら、多くの場合プラスチックには未反応の原料モノマーが残存している。

原料モノマーのうち、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ホルムアルデヒド、アクリロニトリルはラットやマウスへの投与実験により、毒性が強いことが報告されており、これらの溶出が問題になった。現在では、ポリ境化ビニルの場合、塩化ビニルモノマーの材質中の基準値は1ppm以下に設定されている。熱硬化性樹脂の場合、ホルムアルデヒドを原料に用いるが、これは溶出試験で検出されてはいけないとされている。

最近、ポリカーボネートから、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の一つとされている原料のビスフェノールAが溶出するということで社会間題となった。ポリカーボネート食器は小中学校の給食用に使用されているが、これをほかの素材のものに変更したところも多い。

一方、プラスチックには、その特性を向上させるため、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、などの添加剤が使用されている。これまで可塑剤のフタル酸エステルやアジピン酸エステルが環境への残留性や催奇形性、発癌性などで問題となったが、現在は業界が自主的に使用を中止している。

ポリ塩化ビニルの場合、モノマーの含有量に加え、可塑剤のジブチルスズ化合物(50ppm以下)や安定剤のクレゾールリン酸エステル(1,000ppm以下)の溶出量も規制している。また、ポリスチレン、AS樹脂およびABS樹脂の場合、材質中のスチレン、トルエンほかの揮発成分の総量に規格基準が決められており、一般食品用は5,000ppm以下であること、熱湯を入れて使用する発泡ポリスチレンの場合は2,000ppm以下(ただし、スチレン1,000ppm以下、エチルベンゼン1,000ppm以下)となっている。



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