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工場排水について

工場公害1953年頃から熊本県で発生した水俣病は、新日本窒素肥料水俣工場が流した排水中の水銀が、水中生物の食物連鎖によって、水俣湾の魚介類に高濃度のメチル水銀となって蓄積され、この魚介類質を食べた人たちに、メチル水銀の吸収蓄積による脳神経系の障害が発生したものです。

同様に、1965年に、新潟県阿賀野川流域において発生した第二水俣病は、昭和電工広瀬工場の排水中の水銀が、有機水銀となって魚介類に蓄積し、また富山県神通川流域に、1940年代からみられたイタイイタイ病は、二井金属鉱業神岡鉱業所が流した工場排水中のカドミウムによって、米などの農産物が汚染して、それぞれ危害が発生したものです。

PCB(ポリ塩化フェニール)による最大の事故は、カネミ油症事件です。PCBはそれ以外にも、広く全国的に発生した環境汚染の原因となった物質です。PCBは、わが国ではすでに1954年から大量に生産され、熱、酸、アルカリに強く、絶縁性に優れ、接着力も強いなど、工業的にすぐれた性質を持つことから、広い用途に用いられ、テレビ、蛍光灯などの電気製品から、印刷用インク、塗料、ノーカーボン紙などの製造に使われていました。

工場排水の影響を受けやすい琵琶湖や瀬戸内海の魚介類に高濃度でPCBが検出されたのがきっかけとなって、1971年には、人が直接触れる塗料などの製品についての使用が、翌年にはそれ以外の製品についても使用が制限されましたが時すでに遅く、各地で採れる魚介類などから高濃度のPCBが検出され、とくにPCBを使用している工場から排水された海域の魚介類の汚染は著しく、近海魚は大きく影響を受けたのです。

消費者にとってショックであったのは、魚、肉、牛乳などの食品だけでなく、全国各地で母乳からもPCBが検出され、なかには0.7PPMという高濃度の検出例もあって、ひどい汚染状態であることが確認されたことでした。

汚染の拡散、伝播の恐ろしさを示したものということができます。このような環境汚染による人身被害は、化学物質の開発のあり方が厳しく問い直される端緒となった問題ですが、このことがその後、十分に生かされていなかつたことは、その後、半導体工場などで洗浄剤に使われている発ガン物質のトリクロロエチレン、クリーニングの溶剤のテトラクロロエチレンなどによる環境汚染の問題、あるいはごみ焼却施設などから排出される猛毒のダイオキシンによる環境汚染の問題などからもうかがえます。

海洋汚染について

漁網や船底の塗料に藻や貝類が付着しないように防汚剤として多種類の有機錫化合物が使われてきましたが、これが内湾や河口の魚類を汚染していることが、環境庁の調査で明らかになりました。

毒性の強いTBTO (トリブチルチンオキサイド)は、1990年に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」によって製造.輸入が禁止されました。しかしその他にも毒性が認められていながら届け出の規制だけで使えるものがあり、これらの使用が続けば、汚染の進行、ひいては人体への悪影響が生じるのではないかと懸念されています。早いうちに規制強化などの対応が必要です。



メチル水銀で脳に障害
人間の体内への水銀の取り込みはほとんど魚介類からだといわれているが、いったいなぜ、魚には毒性のある水銀が含まれてしまうのだろうか。

水銀は、石油や石炭など化石燃料が燃えると大気中に放出される。雨などで海に入ると海底の微生物により一部は有毒なメチル水銀という有機水銀に変わる。それがプランクトンに取り込まれ、小さい魚から大きな魚へと食物連鎖によって蓄積されてゆくのである。

つまり魚のメチル水銀値は、種類で決まるのではなく、その個体の大きさが問題になる。大きな魚ほど水銀値は高い。また寿命の長い魚ほど水銀値は高くなる。なぜなら、魚の体内に水銀が蓄積されている期間が長いほど、その濃度が増してゆくからだ。

さらに、深海魚の水銀値が比較的高いのは、水銀などの有毒物質が海底に沈殿するのが要因だといわれている。魚が肉食か草食かという点でも、水銀値は異なる。食物連鎖の関係で、肉食の魚が一番高く、雑食魚はその次、草食魚は最も低くなる。イワシやニシンなど草食の魚は水銀値の低い魚であることがわかる。

では、魚といっしょに入ってきたメチル水銀は、どのように体に悪影響を及ぼすのだろう。国立水俣病総合研究センターの疫学研究部調査部部長の坂本峰至氏はこう説明する。
「メチル水銀は、システインというアミノ酸と結合して、メチオニンというアミノ酸に似た形になります。そして、消化管から栄養分といっしょに吸収されます」吸収された水銀は、体の中でさまざまな臓器に蓄積されるが、特に脳に取り込まれる特徴を持っている。ケラチン(システインの重合体)からなる髪の毛にもメチル水銀は取り込まれやすい。そのため毛髪水銀値は体内に取り込まれたメチル水銀量の指標となっている。日本人は、2~5ppmくらいと言われているが、諸外国のデータを調べると、この数値は日本に続く世界第二位の魚消費国アイスランド人より8倍高いのだ(アイスランドは小魚を多く食べる習慣がある)。

「メチル水銀による健康障害は神経症状が主な症状です。症状の程度は、取り込んだ量や期間、年齢によって異なってきます。かつての水俣病のように成人の中毒症状が感覚障害(じんじん感、触られても感じにくいなど)や、小脳失調(まっすぐ歩きにくい、動作がスムーズにできないなど)視野障害、聴覚障害であるのに対し、胎児期にメチル水銀中毒が起こると、脳性麻痺や知能障害が起こります」

脳には、血液脳関門という毒物を脳に取り込まないようにする仕組みがあるが、システインと結合したメチル水銀は、この関門を容易に通って脳に入ってゆく。体内に取り込まれたメチル水銀は、少しずつ尿や便と一緒に排泄される。体内のメチル水銀が半分になる期間は、一般に70日で、一方的に蓄積量が増えるのではなく、常に排泄もされている。しかし、メチル水銀を多く含む大型魚ばかり食べ続けていれば、体内水銀量は増えることになる。それを避けるためには、水銀濃度の高い魚を食べたら次は、小魚など水銀値の低い魚を摂ることで、体内水銀値が上がらないように考えて食べる必要があるのだ。

大量にメチル水銀を吸収すれば、成人でも症状が出ることは、話にも出ているが、胎児の脳に対する影響はさらに大きい。「胎盤は、母親の血液に含まれている有害物質が赤ちゃんに入らないようにするろ過装置の役目をします。しかし、メチル水銀はアミノ酸(システイン)に結合して胎盤を容易に通過し、胎児に1.5~2倍の濃度で蓄積されてゆくのです。

現在の魚の水銀濃度ではすぐに影響が出ることはないと思います。妊娠初期、中期はさほど心配はありません。しかし妊娠後期は脳が成長する時期なので食生活は気をつけてください。また、母乳からはほぼ検出されないという調査結果が出ているので、母乳から乳幼児には水銀は伝わらないと考えてよいでしょう。
メチル水銀は活発に活動している細胞のところに移行する。人間の場合、脳、免疫機能細胞に移行しやすく、特に胎児は細胞活動が活発な分、移行しやすい。
1990年のWHOの報告では、母親の毛髪水銀が10120ppmであると、胎児に障害が現われる危険性が5パーセントであるとしている。さらに、最近のデータでは、10ppm以下でも胎児への影響が出る可能性も指摘されている。胎児性水俣病研究を長年続けている熊本学園大学社会福祉学部福祉環境学教授の原田正純氏が語る。

「妊婦が微量の水銀を摂取することによって、へその緒から水銀が移行して、子供に集中力や注意力、記憶力が乏しかったり、細かな運動ができないなどの機能障害が出るというレポートは既に発表されています。日本は水俣病の教訓がありながら、なかなか妊婦に注意を呼びかけようとしなかった。昔から国民に対しての情報提示が正確ではなかったことが、一般消費者の恐怖をかえってあおる結果を引き起こしてしまったのです。

胎児における水銀の影響の実例をもっているのは日本だけだった。だからこそ、その後も、もっとわが国独自の実験調査をおこなうべきだったのに、そうした地道なことはせずに、逆に蓋をしてしまおうという動きから、実態調査をしてこなかったのである。



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