目次

1.食品製造業の発達
食品製造業の発達も食の外部化に大きな貢献をしている。いいかえれば食品加工技術の進歩である。
中食のひとつに冷凍食品があるが、これは冷凍技術の進歩があるからである。

昔は、家庭に冷凍庫はおろか電気冷蔵庫もなかった。冷蔵庫といえば、氷で冷す氷冷蔵庫があるだけであった。家庭に冷蔵庫が普及したのは、1960年代からで、テレビ(白黒)、洗濯機とともに三種の神器と呼ばれた。フリーザー付き冷蔵庫が普及したのはもっとあとになる。家庭にまでフリーザーが普及して初めて、冷凍食品が普及する。

調理が不要なインスタント食品の普及も技術の進歩の裏づけが必要であった。レトルト(パゥチ)食品は、加圧加熱に耐える包装材(パウチ)の開発があって初めて可能となった。即席麺も、凍結乾燥(フリーズドライ)技術の開発によってさまざまな具材を取り入れることが可能となった。

食品添加物の利用も中食の充実に欠かせない。保存しても食感が変わりにくい調理品をつくるために利用される各種の乳化剤、保存性を増すために使用される各種の保存効果のある添加物などである。
食生活の変化の裏側に、各種の技術開発があることを忘れてはならない。


2.外食産業とともに成長した冷凍食品
冷凍食品とは、日本標準商品分類によると「前処理をほどこし、急速冷凍を行い、包装された規格商品で簡単な調理で食膳に供せられるもので、消費者に渡る直前まで商品がストッカーでマイナス15℃以下に保蔵されたもの」としている。したがって、冷凍品であっても、丸のまま、素材形態で凍結したものは冷凍食品とは呼ばないわけだ。

日本冷凍食品協会の調査によると、99年の冷凍食品の生産量は150万トン、金額にして7500億円となっている。協会が設立されたのは74年であるが、このときの生産量は12万トンであったから、これと比べて10倍以上となっている。成長食品の一つであって、工場数も協会設立時の256工場から最近では900工場を超えている。

協会では品目別データを作成しているが、これによると、調理食品が最も多く82.6%、以下、水産物(6.7%)、農産物(6.2%)、菓子(3%)、畜産物(1.4%)の順となっている。

また、製品の配分先をみると、業務用が圧倒的に多く72%、家庭用は28%である。
このように、外食産業で冷凍食品が利用される要因として、一つには調理面での利便性があげられる。ファミリーレストランなどでは、プロの調理人をおかなくとも、アルバイトでも調理可能であり、そしてコストも安い。二つには調理スペースを少なくして、その分を客スペースに回すことができる点である。

外食産業にとって、冷凍食品の利用は、専門職を排除し、調理時間を短縮し、さらに顧客スペースを拡大させる魔法の食材といえる。
もっとも、冷凍食品の場合には、工場立地と原料入手との関係が強いため、缶詰生産等と同じく、企業形態として「委託生産」の多いことがあげられる。協会調査によっても、委託生産専門工場、また自社・委託兼用工場数は全工場の7割近くになっている。


3.冷凍食品が担うさらなる食の簡便化
欧米のスーパーにいくと、売場に占める冷凍食品の比重の大きさに驚く。彼我の食生活の違いをそこに集約的にみることができるといってもいい。英国でいま積極的な出店攻勢を続けるスーパーの一つに「アイスランド」がある。名前が示すように、冷凍食品に品揃えの重点をおく業態であり、売場の大半は冷凍食品のケースで占められ、生鮮食品はまったく置かれていない。

欧米で冷凍食品が高い支持を集めているのは、購入、貯蔵、調理において大きな利便性を提供してくれるからだ。冷蔵庫とは別に冷凍庫をもつ家庭も多い。冷凍食品を利用することで時間と手間を節約することは、賢い主婦の要件の一つといってもいい。

そのようなスタイルがわが国においても着実に浸透しつつある。国内の冷凍食品出荷額は約9000億円。家計調査にある冷凍調理食品で一人当たり支出金額をみると、80年の473円から99年には1300円と3倍近くに増えている。

もちろん、日本の冷凍食品消費量は米国や英国に比べ3分の1から4分の1のレベルでしかない。消費量が低い水準にあるのは、日本の場合は大半が業務向け消費であり(家庭向け比率は3割弱、米国は5割弱)、さらに家庭では冷凍食品イコール「弁当に使う食品」というイメージが強く、夕食向けに馴染まないといった先入観が強かったからだとされる。

しかし最近は、日本の消費者も、冷凍食品に食卓を飾る「おかず」と同等の品質、多様な品揃えを求めるようになった。冷凍野菜など単品の消費量が多い欧米と異なり、コロッケや春巻き、パスタ、丼もの、米飯類、茶わん蒸し、たまご豆腐など、日本の冷食メーカーに要求される水準は欧米メーカーの比ではない。

年々、輸入冷凍野菜、調理冷凍食品の輸入が増えている。また、市場の7割を占める業務用は、需要者である外食産業で低価格化競争が激化しており、大きな伸びは期待できない。このように国内冷食メーカーをめぐる事業環境は厳しさを増しており、「利便性プラスα」のαにこだわり、追求する家庭向け商品の開発に各社しのぎを削る。シェアトップのニチレイを追撃する加ト吉、味の素、日本水産が力を入れるのも家庭用商品の開発、投入だ。


4.健康管理は企業任せー家庭で調理する食事は16%
食を取り巻く環境で、強調しておきたいのは、食卓の問題です。
いま、私たちは食べたり飲んだりすることに、年間80兆円ほど使っています。これは日本の一年間の国家予算に匹敵します。

農水省の調査では、そのうちの半分の40兆円を加工食品に使っています。30%強の27兆円は外食です。残りの13兆円・16%ほどが食材を購入し、家庭で調理し、家族で食卓を囲むことに使われる金額です。私たちの食事は加工食品や、中食(弁当や総菜など外部で調理されたもので、手を加えずにそのまま食べられる食品)や外食に大きく依存しています。これは言い換えれば、家族の健康管理の80%以上が企業任せになっています。

中食や外食がまったく悪いというわけではありません。時には家族団らんで外食を楽しむのもいいことだと思います。ただ、こういう食生活に頼り過ぎると、親や大人が子どもに食事の作り方や健康について大切なことを伝えていく機会が奪われてしまいます。食卓を囲むことはすごい力をもっています。一日に三度、一年間には1000回以上、親や大人が子どもに伝える機会があるのですが、それをみすみす失っています。食卓を囲むということは、生きる力をつけることです。

野生の動物は、集団生活の中で生きる力を身につけます。餌を探し、捕まえ、食べる力をつけます。いったん捕まえられて動物園で飼育されると、二度と野生にはかえれないと言われます。飼育係が運んでくる餌を食べるだけで、餌を探すことも捕まえることも忘れてしまって、野生には戻れないのです。

私たちの生活も、スーパーマーケットに行けば、食品産業という名の飼育係の運んでくる色とりどりの食品が並べられており、その中から選びさえすれば、献立も調理も味付けも何も考えること、ただ食べるだけでいいわけです。生きる力をつけるために努力することが、少しずつおろそかになっています。
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