業態ってなに?業態による小売業店舗の分類
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小売業において、業態ということが、何故、問題になるのでしょうか。
業態という言葉は営業の状態という意味においては、製造業や卸売業などでも使われることかありますが、そう多用される概念ではなく、また、何か重要なテクニカルターム(技術用語)でもありません。
しかしながら、小売業における業態は、きわめて重要なキーワードです。業態についての認識を誤ることが事業の失敗に結びつくことさえある、それほど重要な意味を持った言葉です。
まずはじめに、営業の形態という意味での業態が、何故、それほど重要な概念であるのかから考えてみたいと思います。
小売業と同じような意味における業態が認められる業種に、飲食業、旅館(ホテル)業などがあります。
飲食業は、さらに、喫茶店、食堂(レストラン)などに分類できますが、そのいずれにも業態といえるものがあります。
喫茶店には、仮に名付けてみれば、ティールーム(ちょっと寄って会話を楽しんだり待ち合わせをする喫茶店)、音楽喫茶(クラシック、シャンソン、ジャズ、ロックなどを楽しむ喫茶店)、グルメ喫茶(コーヒーの味を楽しむ喫茶店)、ラブ喫茶(恋を語るための喫茶店)などの業態があり、それぞれ、固有の立地・規模・サービス・設備などを持っています。
食堂(レストラン)にも、ファーストフード、ファミリー・レストラン、ディナー・レストランなど、営業の形態の違いを示す業態があります。旅館業にも明らかに業態が識別できます。
小売業も含めて、営業の形態という意味での業態が認識できる業種に共通の要素を考えてみると、次のとおりです。
第一は、これらがいずれも、不特定多数の顧客を対象とした、店舗を有する営業であるということです。
第二は、その店舗が、建物という不動産であるということです。
そして第三は、一と二に深く関連して、これらの営業の成否がその店舗の立地に大きく左右されるということです。
この三つの特色が、業態というものが生まれてくる理由ではないかと思います。
企業経営という観点から見たとき、不動産に投資された資金は長期間かかって回収されます。
法定償却年数を見ても、鉄筋コンクリート造りで、60年程度です。
自ら建物を所有しない場合は貸借するのが普通ですが、その場合、20年程度の長期契約をし、しかも期限の到来とともに、再度長期契約するのが普通です。
このことの意味は重要です。すなわち、不動産という形で店舗を持つ業種にあたっては、その店舗が数十年間の長きにわたり、生き続けなければならないのです。
これは、変化の激しい現代社会にあってはきわめて困難なことです。
数十年間以上営業の役に立ち続ける店舗をつくるにはどうしたらよいか。
その答えは数十年間以上変わらないものにしっかりと根をおろした営業を考えることです。それは、あたかも、長い年月を耐え抜く建物を建てるためには、その基礎を、多少の地面の変化にも影響されない岩盤にしっかりと固定する建築工法に似ています。
人間の社会のなかにある、岩盤のように変わりにくい部分、それは、人間の社会生活のなかにある非常にベーシックな営みのなかに存在しているはずです。小売業との関係で言えば、それは、衣食住のベーシックなニーズを満たすための調達行動という営みのなかに存在していると考えてよいでしょう。あるいは始終変化しているが、その変化に一定の法則が働いて、全体として長期間安定しているというようなものも業態を支える岩盤になるでしょう。
永続する小売業の業態は、永遠に変わらないとは言えないまでも、ある時代に生きている人間から見れば、過去から未来まで、まるで永遠に変わらない人間の営みのように見える行動を軸にして形成されると考えてよさそうです。すなわち、衣食住に関する調達行動のなかで、長い年月にわたって変化しにくいと思われる人間行動に対応する社会的機能を営むように設計された小売業の店舗であるなら、それは、個々の人間の生命などより、もっと長く役割を果たしつづけるものになるでしょう。
そういう基本的安定性のようなものがあればこそ、小売業は、企業化の対象となり、継続的な設備投資を行なって大企業化されうるのです。その基本的に安定した店舗形態を、業態と呼んでいると考えてよいでしょう。
ある買い物行動を軸にした、ワンストップ・ショッピング可能な、永続性のある小売店ということになると、じつは、それほど多くないのが当然と言えるでしょう。ホームセンターなどは、その最有力候補でしょう。家具・書籍・スポーツ用品・家庭用什器(家電を含む)などの購買行動は、かなり独立性が高く、それを軸に業態が確立するかもしれません。
ひところ業態開発が流行のようになったことがありましたが、業態の本質をよく考えてみると、業態開発は、何年、あるいは何十年に一度の戦略的問題です。むしろ、日常大切なことは、ある業態を前提にした、優れたノウハウをつくりあげることではないかと思います。業態開発というと、目の色が変わるところに、長年、アメリカやヨーロッパから、出来あがった業態を輸入してきたわが国流通業界の特殊事情があると言えるのではないでしょうか。
一般の議論では、ディスカウント戦略を採用するかしないかが、業態の違いに大きな意味を持つとされています。
しかしながら、業態を社会的機能の違いとみると、ディスカウントの強弱が、なんら業態の違いを意味しないのは、当然のことです。
ディスカウントを採用するか否かは、製品(あるいは商品)の価格をいくらにするか、という問題に過ぎません。メーカーやサービス産業を例にとって考えてみても、価格政策の違いを業種の違いと解釈したりはしないはずです。
それは、業態の本質とは何の関係もないことです。低い差益率で大量販売を指向する自動車メーカーも、高付加価値で、限られた需要を満たしていく自動車メーカーも、どちらも自動車メーカーで、その本質には何の違いもありません。〈何故、小売業だけが?〉と問うてみるべきではないでしようか。
百貨店、スーパーマーケット、ゼネラルマーチャンダイズ・ストア、コンビニエンス・ストアなど各業態ごとに、ディスカウント戦略を強く打ち出すものとそうでないものがある、と考えて何の不都合もないと思います。
数千平方メートルから数万平方メートルの売り場面積を有し、取り扱い商品はきわめて多岐にわたっています。食品や消耗雑貨を扱っている売り場の比率は、全体の半分以下どころか、店によっては一割に満たない場合もあります。
内食材料提供業であるスーパーマーケットは、必然的に、
①住宅地立地
②生鮮食品重視
③標準的店舗規模
の三つの条件を満たすはずなのですが、ビッグストアは、このいずれの条件も満たしていません。
ビッグストアは、住宅地というより、都市の中心部に出店するか、あるいは、巨大な店をつくることにより自ら都市の中心部をつくり出しています。内食材料を提供するために消費者の住んでいる場所の近くに寄って店をつくるというのとは全く異なる出店戦略です。
店舗の規模も形態も何か明確な基準によっているとは言いがたく、きわめて多様です。むしろ、商圏の大きさに合わせて店舗規模や形態を自由自在に変えていると言ってよいでしょう。
生鮮食品に対する取り組み方は、企業によって差があり、一概には論じられませんが、過去の実績を一般的に言うなら、衣料や耐久消費財以上に生鮮食品が重視されていたとは、とても考えられません。
このようなことから判断して、ビッグストアがスーパーマーケットでないことは確かのようです。一部にスーパーマーケットの要素を持った他の業態であるか、スーパーマーケットの要素をいっさい含まぬ他の業態か、いずれにせよ、この種の店舗がスーパーの代表と見なされていることは、スーパーマーケット、ビッグストアの双方にとって、あまり好ましいこととは思われません。スーパーに対する消費者のイメージも混乱しますし、小売業者自身も混乱してしまうからです。
念のためお断りしておきますが、ビッグストアがスーパーマーケットではないということは、ビッグストア、スーパーマーケットのどちらにとっても、特に名誉なことでも不名誉なことでもありません。それは乗用車と貨物自動車は別車種に属すると言っているのと同じで、そこにいっさいの価値判断を含むものではないからです。
しかし、もしビッグストアがスーパーマーケットでないとしたら、いったいそれは何なのか、何故そういう業態が日本に成立したのか、そして、それはこれからどうなるのか、というようなことが問われなければならないでしょう。