スーパーマーケットの登場でワンストップショッピングが当たり前になった
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これを解く鍵は、実は意外なところに隠されています。それは、ワンストップショッピングという概念のなかにあります。
ワンストップショッピングというのは、日本では、その店でなんでもそろうことというかなりあいまいな概念として用いられています。だから、日本のいわゆるスーパーであるビッグストアが、儲りそうな商品をなんでもかんでも採り入れながら店舗規模を拡大していったとき、ワンストップショッピングはラインロビング(商品ラインの収奪)と並んで柱となったイデオロギーでした。
しかしながら、この言葉のそのような用法は誤りではないかと思われます。何故なら、そんな概念から生まれてくる結論は、小売店の進歩は、常に店を大型化してなんでも扱うことだということに論理的にはならざるをえず、その結論は、少し考えればわかるとおり、まったくナンセンスです。
そのような概念でつくられた店は、ある規模を越えると採算に乗りにくくなり、やがては破滅的な結果を企業にもたらすはずです。つまり、もしワンストップショッピングがそのような意味なら、それは、長期安定的存在としての小売業態を表現するのに用いる用語として、不適当です。
ワンストップショッピングの意味をまったく違うものだと考えています。それはその店でなんでもそろうことに、次の重要な制約、すなわちある目的をもった買い物行動を前提として入るのです。
買い物行動は多様です。頻度がいちばん多くて、生活に重要な意味をもっているのが、家庭内で食べる食事の原材料を調達することを目的とした買い物行動(以下、内食材料調達行動と称します)ですが、日常的に行なわれる買い物行動としては、ほかに、家にいて急に何かが買いたくなったときの買い物行動や、特定の商品(たとえば本やレジャー用具や背広)などを求めるときの買い物行動、あるいはむしろ家族が一緒に出かけることのほうに重点のある、レジャーに近い買い物行動など、きわめて多様です。
ワンストップショッピングは、これらの買い物行動のひとつないしは複数を前提にして、何でもそろうことなのです。だから、この概念は、店舗の大型化を意味するのでなく、品揃えの目的整合性と、結果としての店舗規模の適正化を意味するのです。「こういう目的の買い物をしに行ったとき消費者が求める商品の範囲は、これより少ないから、ワンストップショッピングの概念により、この店の売り場は広すぎる」という文脈で使いうる概念です。
その第一は立地条件に関することです。内食材料提供業にふさわしいのは、どんな立地でしょうか。期待すべき本来の商圏を探るヒントを得るため、住宅一戸一戸までわかる大きな住宅地図を貼り合わせて、その地図上にある内食材料提供業を赤く塗ってみたのです。肉屋、魚屋、八百屋、乾物屋、米屋、酒屋…。
その結果は一目瞭然でした。
内食材料提供業を営むこれら専門店は、おそらくワンストップショッピングの効果をあげるためでしょう、一ヵ所に集まって、商店集団をつくっていました。商店集団には大きいものも小さいものもありましたが、各商店集団は、実にみごとな距離間隔で、あたかも宇宙の中に無数の島宇宙が浮かんでいるように雲ハランスよく並んでいました。
商店集団と商店集団との間隔が、都市計画の用途地域などの関係から、1キロも離れてくると、その二つの商店集団の間の住居専用地域のなかに、肉・魚・野菜などを売る小さな市場や個人商店の小さな群が生まれてくるのです。
内食材料提供業の立地条件のあるべき姿を知りました。直線距離で400メートル、すなわち、徒歩でどんなにかかっても10分以内に、そうした店がないと、生活者にとっては不便でしょうがないのでしょう。ワンストップショッピングの機能を意識的に付け加えたスーパーマーケットにおいても、その本質、すなわち内食材料提供業は生活者の住むところの近く、つまり住宅街の近くに立地しなければならないことに変わりないはずです。
買い物の手段が徒歩から自動車に変わってもこのことは変わらないでしょう。すなわち、時間距離片道10分以内です。
これは、小売業の側から見れば、内食材料提供業は、生活者の住んでいる近く、つまり住宅地に立地しなければならないということになります。
肉・魚・野菜などの生鮮食品は、加工食品や雑貨と異なり、その加工段階の一部を、小売業が行なう必要があります。後から見るように、加工センターなどに委託して加工してもらい、小売業では、ただ商品を並べるだけという試みもありますが、鮮度・品揃えの両面で、よい結果が出ません。
やはり、生鮮食品の加工は、どうしても、小売店の店内で行なうべきです。そうなると、その商品の規格は小売業が自らつくることになります。したがって、消費者のニーズにぴったりとあった規格づくりができる小売業は、当然、強い競争力を持つことかできます。この点に注目して、生鮮食品はすべてストアブランド、などと言う人もいるくらいです。
しかも、生鮮食品は、きわめて鮮度低下のスピードの早い商品です。英語で生鮮食品のことを、ペリシャブルズと言いますが、言いえて妙というところです。日本においては、鮮度の問題は特に重要です。それは、日本人の食生活における柱のひとつである魚が、とりわけ鮮度管理のむずかしい商品であること、および日本人が世界でも群を抜いて鮮度に敏感な国民であるからです。
内食材料提供業であるスーパーマーケットの店舗規模については、次の二つの相矛盾する要請があります。
ひとつは、前述の立地条件に関係があるのですが、スーパーマーケットは、できるだけ生活者の住んでいる近く、つまり住宅地に立地しなければなりません。住宅地に立地するということは、ある程度の規模に収数してきます。
つまり、スーパーマーケットは、ある時代のある社会を前提にすると、だいたい似たような規模―標準的規模になるのです。このことは結果として、スーパーマーケットが、標準店という概念になじみやすく、また、それ故に、単品の売れ数を大きくすることによる幾多のスケールメリットを出しやすくするという結果を導き出します。