目次

1.国民の胃袋と健康を守る産業に働く誇り
自動車産業、家電産業、電子産業は、日本経済のめざましい発展に多大な貢献を果たした、日本経済を代表するリーディング産業である。

しかし、それらの産業が提供する商品は国民すべてが必要としているわけでない。また、すべての国民がそれら商品の高度化を希望しているわけではない。自動車をもたない人もいれば、多機能型家電製品に愛想をつかす人もいる。

その点、食品産業は、国民すべてが日々必要とする食品を製造し提供する産業である。赤ん坊から老人まで、お金持ちだろうとなかろうと、健康な人から入院している人まで、はたまた人間の胃袋からペットの胃袋まで、ありとあらゆる年代・階層・状態の国民に、一日数度口にする商品を提供している。

一定量を欠かさず、安全確保に万全の体制で臨みつつ、より栄養価が高く、健康に資する食品、生活の簡便性を高める食品を絶えず追求していくことが求められる産業である。

労働統計調査の常用雇用指数でみると、90年代に入り、食品製造業は、他の製造業に比べ、また産業全体と比べても、雇用の受け皿として、相対的に高い伸び率で推移してきた。

95年の『国勢調査』によると、食品製造業(産業分類でいう食料品製造業と飲料・飼料製造業)に働く人は129万人にものぼる。90年から95年にかけて製造業全体が8%近く従業者数を減らしたのに対して、食品製造業の従業者は4%強伸びた。その結果として、製造業全体に占める比率も9.4%から10.7%へ1ポイント以上増えた。

製造業を中心に産業の空洞化が叫ばれるなか、国内製造業としての食品製造業の相対的比重が高まったのは、需要の海外移転が相対的に小さかったことに加え、中小企業が相対的に多いことが関係している。

中小企業が相対的に多い産業構造は、地域食文化の多様性を反映したもので、全国一律の商品供給が限られた分野でしかないことをうかがわせる。リーディング企業として活躍する中小企業が、さまざまの分野に多く存在しているということでもある。

日本の平均寿命は欧米先進国の中でもトップ水準にある。その原因は多岐にわたるが、生活の基本を支える食が、その食のなかでも食料品の最終消費における比重が5割を超える食品が、日本人の健康維持に貢献している可能性は高い。まさに、1億3000万人の国民の胃袋と健康を守るリーディング産業としての食品製造業の雄姿をそこにみることができる。





2.少子高齢化で縮小する食マーケット
20世紀において食品産業が成長した最大の要因をあげるならば、それは人口増加といっても過言ではないだろう。食品市場は別名「胃袋戦争」ともいわれるが、それは胃袋の中に何を入れるかということと、胃袋の数がいくつかが問題となるからだ。

第一回国勢調査が行われたのは1920年であった。その時の日本の人口は5596万人であった。第二次大戦で減少するが1950年には戦前水準を超え8320万人、そして50年後には1億2691万人となる。50年間1.5倍となる。すなわち、胃袋の数が50年間で4400万個増加したのだ。

人口数は増加したものの、その内容は大きく変わった。すなわち、50年の人口構成をみると、20歳未満が45.6%、65歳以上は4.9%であった。だが、50年後は、20歳未満が13.8%、65歳以上が14.5%となった。20歳未満の未成年は、50年間で1000万人も減少し、65歳以上の高齢者は1500万人も増加したのだ。

先進国の例によると、高齢者の割合が2倍になったのは、フランスの場合25年、スウェーデンは85年、イギリス・旧西ドイツは45年の歳月を要している。これに比べ、わが国の場合、50年で3倍になったのだ。このように高速度で高齢化が進んでいる要因としては、平均寿命が伸びたこと、それに出生率の極端な低下があげられる。

人口増加によって支えられてきた従来の食品マーケットが、人口増加率の低下、少子高齢化によって変わってきている。特に、人口の15%を占める高齢者の食市場への対応が福祉問題とともにクローズアップされている。

そこで、家計調査等から、高齢者世帯の食料消費の特色をあげると、次のようになる。
第一は、高齢者世帯では食費の支出額が大きく、わが国の平均世帯よりも食費の額も食費の割合も高いことだ。平均世帯以上に食に金をかけている。

第二は、食に対する意識の高さである。一般に食は栄養と健康を基本としている。だが、高齢者にあっては、栄養と健康に加えて、楽しみが入ってくるのである。加齢とともに体力の減退する高齢者にあっては、量よりも質を重視した食生活となっている。

第三は、食に対する意識の高さとも関連するが、多種類の食品を購入している点である。食に金をかけるため、品目数・種類数が多くなっている。第四は、食品利用面からみて、高齢者では素材品ベースでの利用が多いことである。総菜品のような調合された食品の利用が少なく、高齢者世帯では素材品を購入して、これを家庭内で調理・加工するケースが多いのである。

以上のことから判断して、高齢者に対応した「食」の開発にあたっては、便利さもポイントとなるが、これに栄養・健康面での効用を加え、さらに楽しみをいかにとり入れるかが重視されるだろう。高齢者に対して、いかなる「味付け」ができるかがポイントとなる。



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