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食品メーカーのレトルト食品が今の日本人の胃袋を支えている現実
目次
1.さらなる日本市場の深耕
消費者の独特の嗜好、高コスト経営を不可避とする事業環境ゆえに、日本の小売市場への外資系小売業の参入は無理といわれてきた。その常識に異を唱えるように、米ホールセールクラブ「コストコ」が福岡県久山に出店したのが99年。2000年の12月には、千葉県幕張に、フランス最大のハイパーマーケット「カルフール」が出店を果たした。さらには、20世紀の最後の最後の日になって、参入の噂が絶えなかった世界最大の小売チェーン「ウォルマート」が、2002年の日本市場への参入を明らかにした。
日本の食品メーカーは、良くも悪くも、日本の小売業界と共存共栄の関係にあった。日本の大手小売チェーンは、為替レートや商品分野によっては海外製品の仕入れに積極的に取り組むものの、基本は日本の食品メーカーからの仕入れに頼ってきた。
日本の消費者の高い鮮度志向や細やかなティストに照らすとき、日本の消費者特性に合った商品の製造、供給、販促に優る国内食品メーカーに頼るほうが得策だからだ。
また、長年、問屋を介した日本型取引様式に依拠してきた小売チェーンにとって、小売業との直接取引を志向する外資系メーカーとの取引は、自社の経営機構の変更、場合によっては改革を意味する、あまりうまみのないものだからだ。
しかし、外資系小売チェーンの日本市場への参入が本格化するとき、日本の食品メーカーの安泰は大きく揺るぎかねないという。一つには、外資系小売チェーンは、問屋を介さない取引を一義的に志向するからであり、二つには、海外からの商品調達チャネルへの依存度が高まるからだ。
後者については、世界の大手流通業が構想を発表した、BmB型の購買連合GNX(グローバル・ネット・エクスチェンジ、参加企業の合計売上高57兆円)、WWRE(ワールドワイド・リテール・エクスチェンジ、同25兆円)とウォルマート独自の購買グループ(同18兆円)が脅威になると予測されている。
中核となるNB(ナショナルブランド)品とPB(プライベートブランド)品の大量仕入れを経営の屋台骨にしてきた欧米の大手小売チェーンにとって、多様な製品の仕入れ、それらの高い回転率での入れ替え、合理性を欠くともみえる高い鮮度・品質管理を要求する日本の消費者の存在は、直面してはじめてわかる大きな違いだろう。特に、NB品に対して高い選好と価格志向性を併せ持つ消費者のわがままともいえる消費特性は、彼我の決定的な違いを痛感させるであろう。
日本の食品メーカーにとって、国内消費者の特性は効率経営の大きな障害だが、それは外資系小売チェーン、食品メーカーの参入障壁ともなる。しかし、この状況が今後も変わらずに推移するかはわからない。日本の消費者のユニークさに甘んじるだけなら、やがて足元をすくわれるだろう。日本の食品市場を深耕し、自らの生存領域を杭として深く埋め込む努力が、これまで通り、いやこれまで以上に、食品メーカーに求められよう。
2.食事も提案する食品メーカー
日本人の平均余命は長くなったものの、時間はますます足りなくなった。やること、やりたいことがあまりに多くなったのだ。現代人は睡眠時間を惜しんでまで活動している。NHK「国民生活時間調査」によると、国民(全員・平日)の睡眠時間は95年時点で7時間27分。60年と比べると実に40分以上も短くなっている(調査方法の変更で単純比較はできないが)といって仕事の時間が増えたわけではない。
家事の時間が増えたからでもない。この時間も減少しているのだ。増えたのは「身のまわり」の時間と、「ラジオ・テレビ」の視聴時間、それと「通勤・移動時間」である。身のまわりに要する時間は30分以上、ラジオ・テレビの時間は1時間増えている。身のまわりの時間は、決して女性だけの問題ではなく、男性の場合でも倍増している。
生活者が睡眠時間を削ってまでも、やりたいことを成就させるために登場したのが、「シリアル食品」と「加工米飯」である。
コーンフレークやオートミール等のシリアル食品は、60年代に登場したが、それほど成長しなかった。だが80年代に入ると、低カロリーで栄養バランスがよく、調理の手軽さが受けて急成長を始める。最近ではホテルの朝食にも利用されている。
市場は日本ケロッグが半数以上を占め、これにカルビー、日清シスコが続いている。市場規模は一時低迷していたが、最近では350億円を突破したようだ。業界では、ゴハンと味噌汁派はともかく、朝食パン派はシリアル派の潜在需要とみている。
シリアル停滞要因の一つに、ゴハンの巻き返しがある。「とぐ、炊く」というゴハンの煩わしさから解放したのが加工米飯である。大型ヒット商材となっているのが「焼きおにぎり」等の冷凍米飯である。これに加えて、おかゆ、お茶漬等のレトルト米飯も順調に伸びている。
おかゆは山形県八幡町農協が売り出した「庄内米しろがゆ」が発端となり、これに秋田県や新潟県の農協や業者が加わり、おかゆ合戦を繰り広げている。伝統食がグルメ食、ヘルシー食として見直されているわけだ。
食品メーカーのメニュー提案をみると、時間のない朝食への取り組みが活発である。パン・牛乳に加えて、スープやドリンク、それにカップ乳飲料やゼリー飲料が登場している。
宝酒造が牛乳、バナナ果汁、はちみつ、ビタミン等を入れてつくった「朝CAN」が大ヒットした。
厚生省『食生活状況調査』によると、主婦が夕食づくりにかける時間は45~60分となっている。現代主婦はやること、やりたいことが多くなり、いかに調理時間を短縮するかが、重要な関心事となっている。食品メーカーでは、多忙で時間の足りない現代人に代わって、食事の世話を始めたというわけである。
3.ゴハンも事業化する食品メーカー
米食は日本人にとって最も重要な食となっている。特に戦前の食生活では、コメから摂取されるカロリーが食消費の6割も占めていた。コメ以外の食料といえば、麦類、芋類、豆類、野菜類、魚介類が少々、それに調味料としての味噌、醤油であった。もっとも、あまりにもコメ中心の食生活であったため、ビタミン類が不足し、「脚気」によって死亡するという事態が起こった。そのため、国はコメ以外にパンを食べるよう食生活の改善を進めた。
だが、高度成長を経て、食生活が多様化している今日、コメからのカロリー供給量は四分の一に減少している。コメ消費は62年の1人一年当たり118kgをピークとして年々減少し、98年には65kgに落ち込んだ。
コメ消費はこのように減少しているものの、食生活でコメは最も多く利用されている食品であり、量的な面からみた場合、肉や魚の比ではなく、わが国最大の食ビジネスである。
多くの食品が数量的には飽和状態となったため、米食に対する食品メーカーの取り組みが活発化している。コメの消費は、家庭では精米を購入して、これを電気釜やガス釜で炊いてゴハンとして食べる。そこで、食品メーカーではコメとして消費者に提供するのではなく、ゴハンとして消費者に提供する方法を取り始めたのである。
この分野を最初に手がけたのは、70年代に島田屋本店が開発した「レトルト赤飯」であった。これを契機として、87年には大手もちメーカーの佐藤食品工業が「サトウのごはん」を発売した。その後、樋口敬治商店、いちかわアクト、ミツハシ等が参入した。95年の市場規模は100億円を突破したといわれている。
また、88年に味の素が全国展開した「レトルト粥」には、キューピーやニチレイ等20数社が参入し、毎年二桁以上の伸びとなった。
白飯の分野では、レトルト米飯が多いが、ピラフやチャーハン等混飯の分野では冷凍米飯が圧倒的に多く、加工米飯の7割を占めている。冷凍米飯として日本水産が発売した「冷凍焼きおにぎり」には、その後、ニチレイ、加卜吉、石井食品も参入し、業務用、市販用を含めて市場規模は400億円ともいわれている。
加工米飯は無菌包装米飯や冷凍米飯を中心として、コメの大凶作の94年を除いて、毎年二桁という高い伸びを示している。だが、人口一人当たりの供給量にした場合、わずか1.6kgにすぎない。コメとしての家庭消費量は減少しているものの、コメを素材としたビジネスは拡大しており、食品メーカーは競って、この分野に進出しているのである。新食糧法の施行により、食品メーカーの参入はますます活発化している。
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