目次

1.食生活とその変化でみる内食・中食・外食
私たちが毎日食べている食事は、そのほとんどがなんらかの調理を経たものである。一般に家庭内で食事をするときは、家庭の台所で調理されたものを、ダイニングルームで食する。すなわち、調理場所も喫食場所も家庭の中である。

このような食事形態を家庭内食、略して内食と定義する。一方、そば店やすし店で食事をしたり、ファストフード店で食事をとることは、外食と呼ばれる。

この場合は、調理する場所も喫食する場所も家庭外である。内食と外食、この2つが長い問、私たちの食生活の形態であった。

ところが、1950年代から新たな食事の形態が普及し始めた。内食と外食の中間の形態である。すなわち、調理する場所が家庭外で、喫食する場所が家庭内であるものである。その典型が、惣菜類である。百貨店の食料品売り場で購入した惣菜を、家庭に持ち帰りそのまま食卓に並べる形態である。このような食事形態を、内食と外食の中間であることから中食と定義する。中食は昼食と区別するために「なかしょく」と発音する。

中食の定義は、調理を家庭外で行うことにあるので、購入した惣菜に家庭内で手をかけて再調理した場合は内食となる。昔から精肉店で調理したトンカツやコロッケを購入して家庭に持ち帰ることはあったが、これらはそのまま食されることはなく、副莱とともに皿に盛られてサービスされることが多く、再調理されることが一般的であった。現在の、コンビニエンスストアで購入される弁当や惣菜は、皿に移し変えられることなく、そのままの形で食される。これが内食と中食の違いである。


外食の分類
外食とは、家庭の外で調理されたものを家庭の外で喫食するものである。したがって、その範囲は広い。大別して、食事を主として(アルコール飲料を)飲むことを従とする給食主体と、逆の飲むことを主として食事を従とする料飲主体に分けられる。
給食主体は、利益を追求する営業給食と、利益を追求しない集団給食に分かれる。一般に外食と認識されるのは、この営業給食である。すなわち、食堂・レストラン、そば・うどん店、すし店といった飲食店である。集団給食は、学校給食、事業所給食いわゆる社員食堂、病院、社会福祉施設などに分かれる。
これらも、家庭の外での飲食であるから外食の概念に含まれるのである。
料飲主体は、食事を主目的にするのではなく、酒を飲む楽しみを享受したり、その他付随するサービスを得るものである。したがって、統計によっては料飲主体を外食統計に入れていないものもあるので、注意が必要である。


外食の市場規模
外食の市場規模は総額23兆円に達するが、その80%が給食主体、またその83%が営業給食(総額の66%)である。また、家計調査によれば家庭が支出する総飲食費の20%が外食のための支出になっている。

しかし、1998(平成10)年以降、外食費は減少ぎみである。その理由の第1はいわゆるバブル経済が終焉して経済成長率が鈍化し、とくに被雇用者世帯の個人所得が減少したことで高額な外食が控えられるようになったこと、第2は外で食事をする回数の伸び悩みである。

国民健康。栄養調査による外食率は、男性で15%、女性で10%、平均で約13%と1990(平成2)年以降下降気味である。すなわち、昼食を学校あるいは職場でとることは、かねてよりー般的であり、夕食を外食にするかどうかで外食率は増加するが、これが限度に達していることを示している。その意味で外食を提供する外食産業は売上増に悩んでいる。


中食の台頭
外食産業を脅かしているもう1つの要因が中食の台頭である。中食すなわち家庭の外で調理したものを、家庭内で喫食する食事形態の増加である。その典型例が持ち帰り弁当である。弁当専門店あるいはコンビニエンスストアで販売される弁当類は、その手軽さから昼食のみならず夕食においても利用が伸びている。

中食は外食と同様に、その調理を家庭の外で行うことから、中食と外食を合わせたものを内食と対比して食の外部化と定義する。外食費は外食を意味し、調理食品支出は中食を意味し、合わせて外部化率を意味する。

1998(平成10)年までは外食費、調理品支出とも高い伸びを示している。しかしその後は、前述したように外食費は伸び悩んでいる。一方、調理食品支出はその後も伸びが続いている。内食の一部が調理品支出、すなわち中食に置き換わったのである。昼食あるいは夕食を家庭の台所で調理する代わりに、外の工場で加工された料理を利用するのである。


2.「中食」の誕生
中食(なかしょく)という言葉は、1990年代以降にフードビジネス業界で使われ始め、その後マスコミや官庁なども使いだして、一般にも普及した。当初は「ちゅうしょく」とも「なかしょく」とも読んだが、前者だと「昼食」と混同されるので、次第に後者の読みに落ち着いた。

なぜこの言葉が、フードビジネス業界で使われるようになったかというと食生活の新しい領域として、「家庭内食」(「内食」と略される)でもない、「外食」でもない第3の分野が拡大してきて、注目せざるを得なくなってきたにもかかわらず、この領域を表現する言葉がなかったので、造語したのである。


「内」でもなく「外」でもなく、その中間ぐらいだという程度の意味で造語された。
内食というと、小売店などから調達した食料品を、家庭のなかで、家族のだれかが調理をして、家族が食するという行為が一般的である。外食というと、レストランでの食事を思い浮かべる。

しかしながら、「デパ地下」で買い求めた弁当を、家庭に持ち帰って開けて食したら(家庭内で食しているので)「内食」であろうか、それとも(外部調理されたものをそのまま食しているので)「外食」であろうか、 どちらかには決めかねるところである。それならば、「内食」でもなく、さりとて「外食」でもなくして、両者の中間領域にあるぐらいの感覚で「中食」と呼んでみようということである。

1990(平成2)年前後のころ、実は大手・中堅食品メーカー、商社、米穀卸、外食企業、コンビニエンスチェーン、スーパーマーケットなど、およそフードビジネスのあらゆる分野から弁当店のチェーン化を求めて、有力企業の相次ぐ参入があった。また、大都市都心部では、自動車(小型トラック)を店舗あるいは屋台に見たてた移動販売や、外食店舗の軒先に仮設の売場をつくって、弁当を売るところもにわかに増えた。

この時期は、大都市都心部が再開発されて、超高層ビルに置き換わっていく時期である。昼間の勤務者人口が膨大数にあふれる一方で、彼らの昼食を供給するレストランについては、以前からの店は立ち退かされてなく、高額家賃の再開発ビルには入店がむずかしいという状況で、圧倒的に過少であった。

結果、昼休み時間に昼食をとれないでさまよう「昼食難民」が、大量発生した。こうした「中食」需要の拡大という事情を背景に、フードビジネス関係者の弁当市場への一斉参入が企てられたのである。そうした企てを表現するのに中食市場への参入という表現が、フードビジネス業界で必要であったのである。
当時、参入した有力企業が手がけた弁当店は、その後ことごとくが撤退するところとなったが、「中食」という言葉は業界で定着したのである。


3.「中食」市場と「中食」商品
中食とは、消費者が食事をまるごと購入品ですますことをいう。こう規定してみると、「中食」は、このときに新規参入しようとした弁当店だけのことではなく、実はそれ以前から多くの供給事業者があったことに気がつく。

まず、外食産業の有力な一角とされていたすしや弁当などの持ち帰り米飯店チェーンがそうである。また、洋風、和風を問わずファストフードのチェーンレストランも、テイクアウト(持ち帰り)部門はそうである。さらには、駅弁、宅配(ケータリング)ピザなどの宅配事業、一般飲食店での出前もそうである。

惣菜製造小売店やスーパーマーケットで販売されている惣菜は、もともとは「家庭内食」を補完すべく、家庭で夕食調理の準備をしている傍(かたわ)らに、出来合いのおかずをもう1品のせようという動機に対応しようとしたものである。

しかし、このころから炊き上げた炊飯米(ご飯)をいっしょに品ぞろえすると、惣菜とあわせて食事全体をまるごと提供することになり、拡大する「中食」需要にたやすく対応することができた。デパ地下も、「中食」対応の品ぞろえを豊富化した。

そうしてみると、「中食」需要の拡大傾向は、大都市や都心部ばかりではなく、全国的なものであるといえる。

こうして、1990年代前半には、外食産業の持ち帰り米飯店も、ハンバーガーなどの洋風ファストフードチェーンも、牛丼などの和風ファストフードチェーンも、宅配(ケータリング)ピザチェーンも、消費者の「外食」需要対応と並んで「中食」需要対応も意識して、店舗数を増大させた。

他方、スーパーマーケットなどでも、「惣菜」を、品ぞろえの中心にある生鮮食料品(生鮮三品)と並んで重視する意味で第4の生鮮品と呼んで、品ぞろえを拡充した。炊飯米(ご飯)だけでなく、うどんやそばなどを詰めた弁当も開発して、「中食」対応に余念がなかった。「デパ地下」でも、「中食」対応の品ぞろえを充実させるために、惣菜・弁当専門テナントの誘致に腐心した。また、パン製造小売店も、サンドイッチや惣菜パンを開発品ぞろえして、「中食」対応に勤しんだ。

こうして、1990年代以降には、外食産業からも、スーパーマーケットなど内食産業=食品小売業からも、「中食」需要に対応した動きが活発になるのであるが、最もよく対応したチャネルは、コンビニエンスストアチェーンであった。

コンビニエンスストアチェーンこそは、「中食」対応商品の充実を経営戦略上の最重要課題として掲げ、「中食商品」を磨きに磨いて、全国へのチェーン店網の構築に邁進したのである。



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