目次

1.黒豚と白豚の安全性や品質を比較してみた

黒豚と白豚でこだわって飼育しているのはどっち?
日本人は、なぜか食品となると黒を好む。髪が黒いからでもなかろうが、黒豚、黒酢、黒ゴマに始まり、黒納豆まである。

ご飯の白米のように、食品も白いほうが清潔感があり、見た目もきれいだと思うが、砂糖も黒砂糖のように、なぜか黒いほうが高級感があって、値段が高くても売れる。いや、高くないと偽物だと思われてかえって売れなくなる。

卵にしても、白玉より品質がいいわけでもないのに赤玉が好まれる。栄養が豊富なわけでもなく、ましてやおいしさの差などもない。単に、種類が違うために卵の殻の色が違うだけだ。

豚にしてもそうだ。白のほうがきれいで清潔に思えるが、人気は圧倒的に黒のほうが上だ。

ただ、販売されているのは精肉だから、もとが白なのか黒なのかはまったくわからない。食べてみても、専門家でも容易に言い当てることはできないし、おいしさの点でも、人気ほど黒豚に軍配が上がるわけではない。

そもそも肉は、目を閉じて鼻をつまんで食べると、牛なのか豚なのか、鶏なのかさえわからないそうだ。そのくらい味は、見た目と臭いに左右されるのだ。

黒豚と白豚の違いは、色だけなのだろうか。実は、黒豚だけには、法律上の基準がある。1999年に農林水産省が、「バークシャー純粋種の豚肉のみを黒豚と表示できる」と食肉小売品質基準で定めている。「黒豚」と表示ができる品種を決めたのだ。

ただし、基準といっても、黒豚の品質がほかの豚より優れているという基準ではない。黒豚ブームに乗って、なんでもかんでも、たとえ白豚であろうと黒豚と表示する風潮が見られたので、それを規制するためにつくられた基準だ。

では黒豚の、安全性から見た品質や飼育環境はどうなのだろう。
最近は、食材のブランド志向のせいか、テレビなどのマスコミで黒豚が取り上げられることも多い。その光景を見ると、決まって屋外で飼育されている。

しかしこれに対しては、豚は土の上に野放しにさせておくのがよい、という俗説がまことしやかに伝えられることもあるが、豚を土の上で飼うと、実際は各種の寄生虫がついてガタガタになってしまうという専門家もいる。

現に、「1996年(平成8年)には、九州の黒豚生産地域などで、ブタ回虫の幼虫移行症が24例も報告されている」という報告もある。

本来、ヒトが固有宿主でない寄生虫の幼虫がヒトに侵入すると、幼虫のまま体内を移行し、一定期間体内にとどまる。これを「幼虫移行」といい、これによるヒトの病気を「人体幼虫移行症(幼虫のまま体内を移行して、ミミズバレなどの多様な症状を引き起こす)」という。

人体幼虫移行症を引き起こすブタ回虫は、豚肉そのものからではなく、糞尿で汚染された野菜などが原因だが、屋外飼育がこうしたリスクを負っているのは事実だ。室内飼育では、狭くて豚にストレスがたまり病気になりやすいように思われがちだが、屋外飼育のほうが、寄生虫だけでなく、屋外の上壌や草などの細菌や病原菌に冒される心配が大きい。

2. 昔は、豚舎というと悪臭の元凶のようにいわれたこともあるが、本来、豚は清潔好きであり、とくに現代の豚舎は、クリーンルームのようになっていて、人が住む家よりきれいといえるかもしれない。衛生面も安全面も問題はなく、非常に安心できる。

黒豚で気になるのは、餌にこだわってはいても、価格が安いからと輸入品に頼り、一方では、飼育方法や精肉の安全性についての説明が一切ないことだ。品質にこだわって飼料にサツマイモを加えている(10~15%)というが、そのサツマイモは鹿児島県産ではなく、ほとんどが中国などの外国産だ。

外国産の飼料は、人が食べる輸入野菜などと違って安全性の調査が遅れている。そんな飼料を使っていては、とても品質にこだわっているとはいえないだろう。

普通の豚肉では、ホルモン剤を使っていないとか、餌の安全性を訴えているものもあるが、黒豚は、黒豚証明書は発行しても、ひたすら血統ばかりをPRして、安全性の情報は盛り込まれていない。そんな証明書では、とても安心できない。

食に携わる者が何よりもこだわらなければならないのは、おいしさも価格も重要だが、まずは安全だ。

たとえば、「食肉に残留すると人体に影響があるとされる動物性医薬品(抗生物質やサルファ剤といった抗菌性物質、内寄生虫用駆除剤、ホルモン剤)を使わずに飼育できるのはなぜか」「完全配合飼料の代わりに何を使っているのか」「餌に含まれる穀物は有機栽培なのか、遺伝子組み換え作物なのか」といった説明が真っ先に必要だろう。これこそが安全へのこだわりというものである。

客観的な安全性の説明がなく、安全性が保障されているわけでもない血統をよりどころに、ひたすら主観的な味ばかりの説明をするのでは、かえって不安を感じる。これでは、2%しか流通していないことが、希少価値にはならない。

餌や飼育方法にこだわっているのは、なにも黒豚だけではない。全国の養豚農家がそれぞれに工夫をしているのだ。2%しか流通していない黒豚より、98%も流通している黒豚以外の豚のほうが、よほど安心できるのだ。



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