目次

食品トレーサビリティシステム

1.スーパートレーサビリティシステムについては、数年前に発生したBSE〈牛海綿状脳症)問題で、にわかに話題になったこともあり、統一された呼称がないまま「トレーサビリティシステム」「トレースバックシステム」などとそのシステムの特性に応じて呼ばれ、いろいろな呼び方が混在してきました。

なかには、単なる原材料や製品に関するデータベースをトレーサビリティ システムと勝手に呼んだりするケースも出てきてしまいました。

一般的には、農場から食卓までといわれるフードチェーンにおいて、川上から川下へと川下から川上への双方向に追跡、遡及できる場合を「トレーサビリティシステム」と呼び、川下から川上へ遡及する単方向の場合を「トレースバックシステム」と呼んでいます。

このような状況の中で、トレーサビリティシステムの定義や要件を明確にする必要が生じましたが、グローバルスタンダードとしての定義、要件は確立していません。そこで、農林水産省では、平成15年の補助事業で安全、安心情報提供高度化事業を実施し、その取組みのー環として「食品のトレーサビリティ 導入ガイドライン策定委員会」を設置しました。このガイドラインでは、トレーサビリティ について「生産、処理、加工、流通'販売のフードチェーンの各段階で

食品とその情報を追跡し、遡及できること」と定義しました。この定義の注釈として、「川下方向へ追いかけるとき追跡(トラッキング又はトレースフォワード)という川上にさかのぼるとき遡及(トレーシング又はトレースバック)という」と付記されています。


2.トレーサビリティの目的


① 食品事故が発生した場合の製品の回収や原因究明の迅速化
② 食品の安全性や品質.表示に対する消費者の信頼の確保



①食品事故が発生した場合の該当製品の回収や原因究明を、迅速かつ正確に行うことができる。
万一、食品事故が発生してしまったときは、該当製品を迅速に回収するとともに、その原因を迅速かつ正確に究明してて、事故の被害の拡大を最小限に食い止めなければなりません。

情報公開により、食品の安全性や品質・表示に対するお客様の信頼(安心)を得る。
情報公開については、トレーサビリティシステムにおいて必ずしも必須となるものではありません。トレーサビリティシステムの定義でもお話ししたとおり、「モノの動きを追跡できること」がトレーサビリティシステムの求められる主たる機能ですから、情報公開については、付帯的な機能と考えてよいでしょう。

3.トレーサビリティの要件


①フードチェーンにおける責任者の明確化
フードチェーンの各段階において、だれが「食の安全」に責任を持つのか、またどこまでの範囲において責任を持つのかを明確にする必要があります。責任が不明確であれば、各々が構築したトレーサビリティシステムは、フードチェーンの全体につながっていきません。

②製品に関する特定情報の検証のための支援が可能であること
該当する製品に関する原材料や製造過程の情報などが、正確な情報であるかを検証するツールとして、トレーサビリティシステムが有効であることが求められます。具体的には、トレーサビリティシステムのデータベースにより該当する製品がどのような原材料で、どのように加工されたかを知る(検証する)ことができるシステムを構築することになります。

③関連する利害関係者及び消費者への情報伝達
フードチェーンに関係するすべての組織やお客様とのリスクコミュニケーションとして、トレーサビリティシステムによる情報の伝達(公開)は、有効な手段といえます。「食の安全」に関する情報を関係者やお客様に常に発信することが信頼関係を強固なものにしていきます。


4.トレーサビリティシステムに使われている技術

現在までに、様々な形のトレーサビリティシステムが開発、運用されています。それらのシステムには、QRコードに代表される二次元コードやICタグといったRFIDなどの最新技術があります。これらの技術は、よくマスコミなどに取り上げられていますが、ここではそれらの技のうち代表的なものについて説明します。
①QRコードを使ったシステム
QRコードとは、二次元コードのー種で、通常のバーコードとは異なり、白と黒の格子状になっています。そのため、縦と横の2方向に情報を入れることができるため、多くの情報を持つことができます。

QRコードは、一次元バーコード以上に多くの情報を入れることができて、なおかつバーコード読み取り装置が読み込みやすいものをというニーズから作られたものです。
そのため、一次元バーコードに比べて、情報量が多く、汚れにも強いなどといった特性を持っています。QRコードを使ったトレーサビリティシステムの例としては一次のようなものがあります。

まず生産者が商品に関する情報をパソコン上に登録し、データベース化します。登録する情報としては、いつ収穫したか、どのような農薬を使用したかといったものです。
商品を出荷するときには、その商品の情報をQRコードに変換して印字します。印字した。QRコードは、商品に貼り付けて出荷します。消費者は、購入した商品に貼り付けられた。QRコードを、携帯電話を使って読み取ります。そうすることで、生産者が登録した情報を確認することができます。
また、面白い事例としては、トレーサビリティシステムと現場での製造のミス防止機能を組み合わせて原材料の配合ミス防止にコードをつけて併せて管理するシステムがあります。


5.RFIDを使ったシステム

RFIDとは、無線のタグにより人やモノを識別'管理する仕組みを指します。
RFIDタグとは、情報を記録しておく小さな電子チップと無線通信用のアンテナを組み合わせた小型装置のことを指します。

RFIDタグのー番の特徴は、他の情報伝達方式と異なり、一度に多くの情報を読み書きできること、そのため読み取りの手間を減らすことができるということ、そして比較的汚れに強いため、汚れやすい現場でも利用がしやすいといつたことが挙げられます。

RFIDタグを使った例としては、JR東日本で採用されているSuicaなどは身近なものとして挙げられます。まず、リーダー/ライターと呼ばれる機械で電波を送信するとRFIDタグのアンテナがその電波を受信して電力に変換します。その電力を利用して、電子チップの情報を読み込み、その後、読み込んだ情報をリーダー/ライターへ送信します。送信された情報は、リーダー/ライターの先につながったコンピュータに入り、情報として利用されます。

RFIDタグは、一見完璧な伝達方式に見えますが、電波を使うため、読み取り能力が周辺環境に影響してしまう技術的な課題や、1個数百円するため価格面においても高いといった課題があり、実用化の上では発展途上の技術であるといえます。



6. Q1最近、よく聞かれる「安全」と「安心」とは、何が違うのですか?また、トレーサビリティシステムは、このどちらにも有効なのですか?

「食の安全性」について論議するとき、「安全」と「安心」とが混同して使われる場合が見受けられます。食品トレーサビリティシステムは「食の安全・安心」を支える有効なツールですから、この「安全」「安心」という言葉をしっかり整理して、論議することが重要です。
まず、「安全」とは、科学的に裏付け(証明)された事実をいいます。まず、「安全」とは、科学的に裏付け(証明)された事実をいいます。
たとえば、野菜の残留農薬について慢性毒性試験などを行い、基準値を0.01ppm以下と設定することなどは、「安全」にかかわることです。それに対して、「安心」とは、あくまでお客様の主観によるもので、食品関連企業が、「この商品は、安全ですよ」と訴えても、「私は、あの会社のいうことは信じられないわ」と思えば、「安心」という言葉は受け入れられません。「安心」とは、食品関連企業が今まで「安全」な商品を提供してきた実績から生じる、食品関連企業そのものへの「信頼感」が生まれるものといえます。トレーサビリティシステムは「食の安全性確保」のツールではありません。あくまで、食の安全は、HACCP手法や一般的衛生管理プログラムの適正な運用で確立されるものです。トレーサビリティシステムは、安全な食品を生産.流通することができてこそ、意味をなすシステムなのです。


Q2新聞紙上で、商品の回収記事や社告をよく見かけますが、現状はどのような状況ですか?

生産、販売された食品の安全性や品質に不具合があり、該当する商品の回収を新聞紙上などで公開して行うことを「オープンリコール」と呼びます。このオープンリコールがどのくらい行われたのかを、独立行政法人国民生活センターが集計して公開していますが2003年は98件、2004年は138件、2005年は119件となっています。具体的な問題点を分析してみますと、2004年、2005年ともに傾向は同じで、2005年の場合健康危害に関する事故である微生物汚染や異物混入などについては全体の41%でした。特に問題になるのは、表示のミスによるものが全体の41%で49件もあることです。しかも、このうち20件は賞味期限の印字間違いやラベルの貼り間違いといったケアレスミスによるものでした。オープンリコールには、新聞紙上などでの社告や回収経費に多額の経費を要します。それにもかかわらず、その原因においてケアレスミスによる事故が多くを占めていることは、食品関連事業者の「食の安全」に対する取り組みが、まだまだ甘いといわざるを得ません。
また、これらの食品事故は、一部の食品関連企業だけで発生する性格のものではなく、ほとんどの食品関連企業で起こり得る食品事故であることを肝に銘じておく必要があります。



トレ—サビリティは「安全性確保の切り札ではない」
トレーサビリティシステムそのものは、フードチェーンにおけるモノの所在と情報を紐付けるツールであり、「安全性確保の切り札」ではあ
りません。

トレーサビリティ を導入したから、安全な食品を提供できていると誤解されている向きがあります。重要なことは「まず、安全な食品を作り、安全に流通すること」です。言い換えれば、安全な食品でないものをいくらトレースしても、消費者に安全な食品を提供することはできないということです。

残念ながら、一部の食品メーカーや流通において、トレーサビリティシステムを導入したことをコマーシャルベースで宣伝に使っているケースが見受けられます。極端な例では、トレーサビリティシステムの構築に多額の投資をしたことを宣伝し、自社の製品の安全性をアピールするケースさえあります。

このようなことにより、「トレーサビリティシステムの構築には多額の経費がかかってしまう」という誤解を多くの食品事業者に持たせてしまっているのが現状です。是非、トレーサビリティシステムの原点を見失わないようにしてほしいと思います。


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