目次

1.輸入食品の微生物汚染問題

輸入食品の微生物汚染微生物汚染問題
輸入食品の微生物汚染問題は、私たちの健康の脅威となっている。それらの中でも代表的な輸入食品にかかわる微生物汚染問題を紹介していきたい。
小型球形ウイルスとA型肝炎ウイルス
小型球形ウイルスによる広範囲な汚染
2001年度の食中毒の原因物質の第1位が小型球形ウイルス(ノーウォークウイルス)であった。しかし、輸入食品に関するこの小型球形ウイルスの安全性のチェックはまったくなされていない。
2001年4月から2002年1月までに愛知県北部市場に搬入されたものを対象とした検査では、「中国、韓国並びに北朝鮮から輸入された二枚貝81件についてノーウォークウイルス、A型肝炎ウイルス及びサッポロウイルスの汚染状況を調べたところ、12件からノーウォークウイルスが検出され、12月及び1月に多い傾向が認められた。

A型肝炎ウイルスは中国産ハマグリから2件、ウチムラサキ貝1件から検出された」と小型球形ウイルスの汚染率が14.8%という数字であることが明らかになった。A型肝炎ウイルスさえも検出されたのである。また、2001年9月から2002年2月に千葉市内に輸入されたハマグリ、赤貝、ブラックタイガー(エビ)、タイラギガイ、カキ、ムール貝60件を調べたところ、60検体中18検体からノーウォークウイルスが検出されたのである。実に汚染率は、30%にのぼる。検出された品目は、「中国産アカガイ、ハマグリ、韓国産アカガイ、タイラギガイ、ハマグリ、北朝鮮産ハマグリ及びインドネシア産ブラックタイガー」であった。このように、輸入二枚員を中心に輸入魚介類が小型球形ウイルスに相当汚染されていたのである。


リステリア菌
リステリア菌は、幼児や妊婦、さらに免疫機能が低下しているハイリスクグループに属する人に対して、髄膜炎や敗血症、流産などを引き起こす。しかし、厚生労働省は、リステリア菌が常在菌であることを理由に、輸入チーズ以外は、輸入検疫対象としてこなかった。この厚生労働省の対応と韓国政府の対応とを比較すると、国民の健康に対する日本政府の姿勢が一層顕著に明らかになる。
韓国では、畜産物についてもリステリア菌の輸入検疫を行い、97年には、タイからのリステリア菌汚染鶏肉の輸入を禁止しているのである。

これに対して、2001年3月に北海道江別市でリステリア菌が原因菌と想定されているナチュラルチーズによる集団食中毒事件が起きたのを受けて、やっと厚生労働省も重い腰をあげ、「食品由来のリステリア菌の健康被害に関する研究」(主任研究者・五十君静信)を開始したのである。深刻な被害が起こってはじめて対策に取り組む厚生労働省の長年の「風習」はここでも残っているのである。

この研究の分担研究のひとつ「リステリアの食品汚染状況に関する文献調査」では、これまで発表された文献による食品別のリステリア菌による汚染状況をまとめている。この研究報告の「研究目的」では、率直に現在のリステリア菌に対する海外の対応と日本政府の対応の遅れの状況を指摘している。引用してみる。

「重篤な髄膜炎等の感染症を引き起こすリステリア菌は海外では食品を介した感染症として認知され、本菌の汚染が想定される食品の監視体勢が整備されている。 リステリア菌による汚染が想定される食品の衛生管理及び監視体勢の方針決定を行うことは、本菌による感染症の予防においてきわめて重要であると考えられる。わが国では本菌による食品汚染の監視体制は未整備であり、監視体勢の確立及び食品の衛生管理強化を行う必要があると思われる」。


2.政府の手抜き検疫によるコレラ菌の侵入
2002年7月に千葉県、東京都を中心に海外渡航歴のないコレラ患者が短期間に多発した。 7月20日武蔵野市を皮切りに、22日江戸川区、24日市川市、25日杉並区、28日板橋区、29日八王子市とエルトール型コレラが発生したのである。原因については判明していない。

しかし、日本での海外渡航歴のないコレラ患者の発生は、1977年の和歌山県有田市での101名を皮切りに、78年の上野池之端文化センターでの49名、89年の名古屋NTT東海での44名の集団発生、91年の1都3県にまたがる22名の発生と続き、その後も92年に2名、93年に4名、95年に35名、96年に13名、97年に35名、98年に5名と毎年のように発生しているのである。

その原因と想定されるのがコレラ汚染国から輸入されるコレラ汚染生鮮魚介類である。現に、輸入生鮮魚介類のコレラ菌汚染調査(「輸入生鮮魚介類の病原微生物に関する汚染実態調査」)の結果、1982年から1991年までの間で64件のコレラ菌検出件数が確認され、輸入生鮮魚介類のコレラ菌汚染が現実のものであったことが明らかになった。コレラ汚染国でコレラが大流行すると、患者から排泄されるコレラ菌が河川を通じて海域を汚染し、その海域内の魚介類が汚染され、そのコレラ汚染生鮮魚介類が日本に輸入され、日本国内でコレラ患者を発症させることになる。問題は、生鮮魚介類の輸入時にきちんとコレラ汚染の有無を検疫検査しているかどうかということである。

腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは、代表的な食中毒菌であり、食中毒の原因菌としては、食中毒の発生件数の1位か2位を占めている。そして腸炎ビブリオによる食中毒は、その原因食品が判明した中では、約4割が魚介類ないし魚介類加工品が原因食品となっている。当然、輸入生鮮魚介類の腸炎ビブリオ汚染の可能性も否定できない。

「輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオの毒素遺伝子保有状況について」(主任研究者・小竹久平)の研究報告書は、その輸入生鮮魚介類の腸炎ビブリオ汚染の状況を明らかにした。この研究は、関西空港に輸入された魚介類のコレラ検査の過程で分離された腸炎ビブリオを対象に調査したものである。その結果は、冷蔵マグロの17.3%から、エビの21.4%から腸炎ビブリオ菌が検出された。このように輸入生鮮魚介類の腸炎ビブリオ汚染が現実の問題となっているのである。

病原性大腸菌0157
手抜き検疫で集団食中毒が病原性大腸菌0157による集団食中毒の猛威が2002年も襲った。2002年7月の福岡市城南区内保育園の感染者112名・20名入院の病原性大腸菌0157による集団食中毒事件。同じく7月の宇都宮病院、介護老人保健施設城南の死者8名・感染者139名を出した病原性大腸菌0157による集団食中毒事件。特に、この死者8名を出した事件は、1996年、児童3名が死亡した大阪府堺市での病原性大腸菌0157集団食中毒事件を上回る最悪の事態となっている。

この病原性大腸菌0157による輸入牛肉を原因とする大規模な集団食中毒事件が、2001年に2件起こった。ひとつは、2001年3月、滋賀県、富山県、奈良県の同じ系列のファミリーレストランで出されたビーフ角切リステーキを食べた6名が病原性大腸菌0157に感染した集団食中毒事件で、原因は、2000年12月にカナダから輸入した牛肉が病原性大腸菌0157に汚染されていたことによる。もうひとつは、2001年3月から4月にかけて千葉県、埼玉県、神奈川県など1都6県で204名の患者を出した滝沢ハムの病原性大腸菌0157集団食中毒事件であった。この原因も2000年11月にアメリカから輸入された病原性大腸菌0157に汚染された牛肉であった。一体2000年に何があったのだろうか。

実は、厚生労働省は、2000年に輸入牛肉に対する病原性大腸菌0157のモニタリング検査計画を立てていなかったのである。経過を見てみると1998年は、輸入牛肉に対する病原性大腸菌0157のモニタリング検査計画を700件立て、692件実施し、1999年は病原性大腸菌0157の輸入牛肉のモニタリング検査計画を680件立て、1361件実施し、その中で9件で94tの病原性大腸菌0157汚染輸入牛肉が発見されたのである。94tというと、1人100g牛肉を食べるとすれば、94万人分に相当する量である。しかし、2000年は、前年に9件もの汚染輸入牛肉が発見されたにもかかわらず、こともあろうに、輸入牛肉に対するモニタリング検査計画は立てず、輸入牛挽肉200件のモニタリング検査計画しか立てなかったのである。

それも輸入牛挽肉の輸入量の詳細もつかまず計画を立てたため、実際の輸入牛挽肉の検査実績は、わずか28件しか出来なかった。そこで慌てて30件の輸入牛肉のモニタリング検査をして、全体でわずか58件のモニタリング検査しか行わなかったのである。事実上無検査に等しい状況であった。その結果、2000年に病原性大腸菌0157汚染輸入牛肉が日本に持ち込まれ、2001年にその病原性大腸菌0157汚染輸入牛肉を原因とする2件の集団食中毒事件が発生したのである。





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