目次

1.食品の変質防止法や殺菌方法を理解しよう
食品の変質防止や殺菌方法殺菌
微生物に物理的あるいは化学的に不可逆的変化を生じさせ速やかに死滅させることを一般に殺商といいます。

微生物学領域では殺菌を滅菌と消毒に大別し、滅菌とは全ての微生物を死滅させるか、あるいは取り除いてしまうこと。これに対し消毒とは微生物による感染を生じさせない状態にすることと定義しています。
微生物を殺す(殺菌)には以下のものがあります。

物理的作用による殺菌
熱を用いる方法
多くの微生物は 適当な条件下で一20°C以下の低温におかれると代謝が完全に停止し、増殖しない状態で半永久的に生存します。これに対し高温環境においては 微生物の種類によって多少の差はありますが、細胞成分に熱変性が生じ短時間で死滅します。

たえば、芽胞を形成できない病原細菌の多くは63°Cで30分加熱することで死滅します。

一方、細菌の芽胞は厚い脂質で覆われ、水分含量も少ないので高熱に対する抵抗性があらゆる生物中でもっとも強く1 0 0度で20分の加熱にも耐えます。種々の物品を減菌状態にするためには、芽胞をも死滅させるだけの加熱条件が要求されます。

乾燥状態下での加熱
①焼却と火炎減菌
微生物の細菌を含めてあらゆる有機物質は、焼却によって無機化されます。したがって、廃棄してもよい汚染物等の殺菌には焼却は有効な手段の一つです。実験室内で微生物の移植に用いられる白金耳や白金線を直接ガスバーナーの火炎中で焼く火炎減菌も焼却の一方法です。

②乾熱滅菌
乾熱とは乾燥状態での加熱のことです。一般には乾熱滅菌器を用い、減菌しようとするものを160~180°Cで30~60分加熱します。ガラスや金属性の器具等耐熱性の物品の減蘭に多用されます。

湿潤状態下での加熱
①煮沸消毒・平圧蒸気消毒
消毒しようとする物品を沸騰水 (100°C) 中またはその蒸気中で15~30分間加熱する方法で、ガラス器具、食器、陶磁器等の消毒に手軽に用いられる方法です。芽胞を形成できない細菌は、この温度条件で短時問内に死滅するが、芽胞は死滅せず、 したがって減菌状態にはなりません。

②間歇減菌
前述のように1 0 0°C(平圧の水の沸点)の加熱条件では、芽胞を死滅させることができず、減菌状態には至らない。そこで60~100℃、30分の加熱を1日おきに3回繰り返す滅菌法が考えられ、これを間歇減菌とよんでいます。

③高圧蒸気減菌
加圧・脱気することにより水蒸気の温度は100°C 以上になることを利用したもので、 高圧蒸気減菌器( オートクレーブ) を用い滅菌しようとするものを115~130°C(通常120°C)の飽和水蒸気中に15~30分間曝す方法です。

④熱による食品の殺菌法
63°C(現在、多くは65°C)で30分間加熱する方法。すなわち低温長時間殺菌法( L T L T 法) は、牛乳やワイン等の風味や栄養価を損なうことのない殺菌法として古くから用いられてきました。

この方法はPasteur によって開発されたことから、一般にパストゥーリゼーション(pasteurization)ともよばれています。これに対し近年では殺菌時間の短縮等を目的として120~150℃で2~3秒間加熱する超高温加熱殺菌法 (UTST法) が開発されています。

照射による殺菌法
紫外線照射
紫外線のうち240~280nmの短波長のものが生物のD N A やRNA にもっとも吸収されやすく、それらの機能を阻害する。 水銀灯が殺菌灯として用いられていて、通常は253.7nmの紫外線を放射する。

これが点灯中は皮膚や眼に障害を与えるので注意が必要です。芽胞を含むほとんど全ての微生物に効果を示すが、その殺菌力は殺菌灯から照射物までの距離の2乗に反比例して滅弱するため、遠くのものへの効果は期待できません。

放射線照射
放射線の一種であるY線は 照射された微生物細胞内の水分子等にそれらのエネルギーを与え、電子を放出させることによって強い酸化能をもつイオンを形成させる。このイオンは殺菌作用を示し、 あらゆる微生物を短時間で死滅させることができる。プラスチック器具やゴム製品に用いられます。

化学的作用による殺菌法
微生物に対して殺菌的に作用する化学物質を消毒剤という。消毒剤の作用機作は細胞膜・細胞壁・核酸および菌体たんぱく質の不可逆的変化、溶菌・細胞の物質透過性の変化とそれに伴う細胞内容物の漏出、物質代謝の撹乱等があげられる。消毒剤の作用はその濃度や作用温度、また作用時間に影響を受けます。

主な消毒剤の作用機作と特徴
アルコール類
一般にはエタノールが用いられる。作用機作は微生物のたんぱく質の変性や脂質の溶解に基づいた溶菌や代謝の阻害である。芽胞をもたない細菌に対しては、きわめて殺菌的に作用し、多くの場合数秒~数十秒で活性を示します。

しかし、芽胞に対しては濃度のいかんに関わらず殺菌作用は示さない。殺菌時間が著しく短いこと、容易に蒸発して残留物を残さないなどの利点があります。日本薬局方では消毒用エタノールを76.9~81.4 % と規定しており、この濃度範囲のものが多用されている。主として皮膚・手指・器具の消毒に用います。

アルデヒド系
アルデヒド系消毒剤の殺菌作用はたんばく質や核酸の活性基の末端にある水素原子をアルデヒドのアルキル基で不可逆的に置換し、強い変性を示すことにある。芽胞やHB ウィルスを含む全ての微生物に殺菌的に作用する。ホルマリンが代表的である。

エポキシ系
エポキシ系薬剤としてエチレンオキサイドが知られている。エチレンオキサイドは10℃で気化し、室温では気体である。 実際にはエチレンオキサイドにC02 ガスを80~90 % またはフレオンガスを9 0 %加えた混合ガスとして使用する。
ある種のプラスチックの膜を通過できるため密封包装した器具の滅菌も可能である。

塩素系
塩素系消毒剤の作用機作は、水中で生成する次亜塩素酸が細菌の細胞質膜を透過して細胞質内の核酸や酵素を酸化し、その機能を阻害することにある。

ヨウ素系
ヨウ素の酸化反応は次亜塩素酸に比べてかなり弱い。しかし作用時間を延長すればほとんど全ての微生物に有効であること。また人体に対する副作用が比較的弱いことから多用される 。〔ルゴール液、ホピドンヨード (イソジン) 等〕

陽イオン界面活性剤 (逆性石鹸)
芽胞を有しない細菌には低濃度で殺菌的に作用するが、真菌には多少効果が劣り、結核菌・ウイルス・芽胞には無効である。また、芽胞をもたない細菌でも緑膿菌等の一部の菌種で耐性を示す株が存在する。少量の有機物の存在によっても、また普通石鹸との共用によっても、陽イオン活性基の相殺によって効果が著しく低下する。


2.食品の変質防止法
食品の変質の原因となるのは、食品汚染微生物や食品材料中の酵素および酸素、光等の物理的な影響である。このうち微生物がもっとも大きな問題であり、食品の微生物汚染や汚染微生物の増殖を防止することが食品の長期保存に重要である。

微生物対策には、食品微生物を殺減する方法と食品を微生物の活動には不適当な環境で保存する方法がある。このうち汚染微生物の殺滅方法としては、加熱殺菌・減菌法・紫外 線・放射線照射法等がある。一方冷蔵・冷凍・チルド法・脱水・乾燥法・塩蔵・糖蔵法・くん煙法・真空パック法・食品添加物法等は食品を微生物の増殖には適さない状態にする方法です。

加熱殺菌・減菌法 食品を加熱処理すると保存性が高まる。これは、加熱が食品汚染微生物を殺減すると同時に食材中の酵素を失活させることに起因する。一般に微生物は、最高発育可能温度を10°C上回る状態におかれると急速に死減するといわれている。多くの病原菌や食中毒菌はヒトの体温付近を発育可能温度域としている。

食品を62~65℃で30分以上加熱処理する方法は パスツリゼーション(低温保持殺菌法) とよばれ、食品中の病原菌や食中毒菌を死滅させて保存性を高めることができる。しかしながら細菌が形成する芽胞は100度で長時問加熱しても殺菌できないものがある。強い耐熱性をもつ芽胞を殺滅するには、121度で15分以上の加熱が必要となる。

このような高温で食品を加熱すれば 滅菌(検出可能な微生物がゼロ) 状態にすることができるが、可食性が失われる可能性が高い。 たとえばアルコール飲料は、あまり高温加熱するとエタノールが揮発し風味の低下をきたす。

また果汁等の酸性食品では、加熱による殺菌効果が強く現れることが知られており、低温殺菌法で十分な効果が期待できる。 紫外線照射法 紫外線は太陽光線に含まれる電磁波の一種で、微生物のDNA に損傷を与えて殺菌作用を示す。

波長250~260 n m 付近の紫外線がもっとも強い殺菌作用を示すといわれている。紫外線の殺菌作用はグラム陰性菌に対しもっとも強く表れ、 以下グラム陽性菌、解母と続き、カビはもっとも強い抵抗性を示す。紫外線照射は加熱処理のように食品を変性させることもなく、また微生物が抵抗性を獲得することもない点で優れた殺菌法といえる。

しかしながら紫外線は物質への透過力が弱く、食品や容器の表面にしかその効果が及ばない、そのため一般的には波長254nmの紫外線殺菌灯を使って調理器具(まな板,包丁等)や調理室内の殺菌等に使われることが多い。

紫外線は日や皮膚に有害作用を示すので注意を要する。 放射線照射法 放射線照射法は放射性物質から放出されるY線や電子線等を食品に照射して殺菌する方法である。

放射線の殺菌作用も紫外線と同様に微生物のDNA への作用と考えられているが、放射線は透過力が強く食品内部の殺菌も可能である。食品への放射線照射は、殺菌のみならず、発芽防止、成熟遅延、生育抑制等の目的で肉・魚・野菜・殺類に対して世界各国で行われている。

しかしながらわが国では 「食品に放射線を照射してはならない」 と規定し、例外として「ジャガイモの発芽防止の目的でコバルト60のY線を150 Gy以下で照射すること」を認めている。

食品への放射線照射に関して、FA0、WH0は10 kGy以下の照射量であれば問題はないとしているが、照射により発生する食品成分ラジカルが生体へ及ぼす影響等の安全面での研究が必要であろう。

冷蔵と冷凍 一般に食品を0~10℃で貯蔵することを冷蔵、0°C以下で凍結させて保存することを冷凍という。食品衛生法で規定されている保存基準では一部例外はあるものの、冷蔵は10°C以下、冷凍は-15°C以下となっている。食品を低温状態におくと含まれる解素の活性や汚染微生物の増殖が抑制されて変質が防止され保存性が高まる。

水分活性と微生物の増殖 微生物はその生命活動に水分を必要としており、ある限界量以下の水分では活動を停止する。

脱水・乾燥法は、食品中の水分を除去することにより水分活性(Aw)を低下させて食品の変質を防ぐ方法である。各種微生物のうち細菌類は乾燥に弱く、増殖に必要な最低水分活性値は0.90といわれている。これに対し酵母、カビはそれぞれ0 88~0.80以上の水分活性で活動が可能であるとされており、カビがもっとも乾燥に 強いといえる。一般には水分活性値0.65以下にすればほとんどの微生物は増殖でき なくなる。

食品の脱水・乾燥法には、大別して自然乾燥法と人工乾燥法がある。 食塩濃度と微生物塩蔵法は食品へ高濃度の食塩を加えて保存性を高めたものである。食品中の自由水は添加された食塩と結合して食品の水分活性値が低下する。この結果、微生物の活動は抑制される。さらに高濃度の食塩添加では食品の浸透圧が上昇し、微生物は細胞質の水分を失い、いわゆる「原形質分離」を起こして死に至る。

その他、塩素イオン白体が殺菌効果を有することや高濃度の食塩添加により食品中の酸素が減少し、これが偏性好気性菌の活動を抑制することなども知られている。食塩濃度10%程度で細菌が、20~30%では酵母、カビの活動が阻止される。 真空パック法 ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックで作った容器に食品を入れ、容器内の空気を取り除いた後密封する方法である。この方法で酸素を除去すれば、偏性好気性菌の増殖を抑制したり油脂食品の酸化を防止したりすることができる。

また密封後に高温加熱処理をすれば、食品を滅菌状態にすることもできる。しかしながら、食品が嫌気的な状態となるために、嫌気性蘭の活動にはかえって好ましい環境となる。1984年6月に発生した真空パックのからし蓮根中毒事件は偏性嫌気性菌であるボツリヌス菌が原因であった。

食品添加物を利用した方法 食品汚染微生物に作用して食品の変質を防止しようとする添加物には殺菌料・保存料・防カビ剤等がある。 一方、食品の褐変、風味の低下や油脂の酸敗等の防止には酸化防止剤が使われる。
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