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輸入食品の安全性問題と空洞化する検疫体制

日本における食品の安全性問題は先進国の中でも独特な性格を持っている。その特殊性は、 日本の食料自給率が40%と先進国でも最低の食料自給率となっているだけでなく、世界最大の食料輸入大国であることに起因している。結局、輸入食品の安全性問題が、 日本における食品の安全性問題の大きなウエイトを占めているのである。それだけに水際の輸入食品の検査体制が、日本の食品の安全性の確保の上からきわめて重要な位置を占めているのである。輸入食品の検疫所における検査体制がどのようになっており、歴史的にどう推移してきたのか、そして課題は何なのかについてみていきたい。

1.現在の食品検疫体制
人員と検査機器
輸入食品の検査を行うのが検疫所である。そこには、食品衛生監視員が配置され、輸入食品の監視と検査を行い、国民の健康を守る業務を行っている。現在の検疫所の人員配置と検査機検疫所の食品衛生監

視員の配置状況
現在、輸入食品の検査を行う検疫所は全国に32カ所(小樽、仙台、成田空港、東京、横浜、新潟、清水、名古屋、大阪、関西空港、神戸、広島、福岡、門司、長崎、鹿児島、那覇の17検疫所があり、その下に、千葉、東京空港、川崎、名古屋空港、四日市、那覇空港の6支所、原木、船橋、灘、下関の4分室、千歳空港、仙台空港、境、広島空港、福岡空港の5出張所の体制)ある。

この検疫所で輸入食品検査を行う業務に携わっているのが食品衛生監視員であるが、その人員は、全国で268人(2002年度。ただし2003年度は283人)しか配置されていない(検疫所ごとの食品衛生監視員の配置状況は、成田空港、東京、横浜、大阪、関西空港、神戸各検疫所が20人から46人の配置状況になっているのに対して、それ以外のところは、 1人から11人ときわめて少なく、 1人しか配置されていない検疫所が、千歳空港、仙台空港、東京空港、四日市、広島、広島空港、境、鹿児島と8カ所もあり、96年から3ヶ所(千歳空港、東京空港、鹿児島)も増加している。

輸入食品届出件数は、1996年から2001年の間に111万7044件から160万7011件と約1.44倍に増加している。その中で、輸入食品届出件数が急増している検疫所は、千歳空港(2.32倍)、仙台(2.31倍)、川崎(2.27倍)、新潟(2.48倍)、広島(2.24倍)、境(3.24倍)の各検疫所であるが、それぞれの検疫所の食品衛生監視員の配置状況は、千歳空港1人、仙台4人、川崎3人、新潟2人、広島1人、境1人といった状況である。輸入届出件数が急増しているにもかかわらず、たった1人の食品衛生監視員で対応させる。その1人の食品衛生監視員が病気になったらどうするのか。まともに年休も取れるのか。あまりにも貧しい検疫現場としかいいようがない。ましてや国民が期待する食品検疫などできようもないことは理解できると思う。

2.検査機器もまともに配置されていない
輸入食品を検査するためには、検査機器が必要になる。検疫所の食品検査機器の配置状況はどうなっているだろうか。調べてみると検査機器が1台も置かれていない検疫所が、10検疫所(仙台空港出張所、船橋分室、千葉支所、川崎支所、清水検疫所、灘分室、境出張所、広島空港出張所、長崎検疫所、鹿児島検疫所)もあるのである。検疫所のうち3分の1は検査機器もない検疫所ということになる。さらに、チェルノブイリ原発事故(1986年)の際に配置された放射能測定器しかおいていない検疫所は、小樽、千歳空港、仙台、原木、東京空港、新潟、名古屋、名古屋空港、四日市、広島、門司、下関、福岡空港、那覇、那覇空港の15検疫所に上る。

結局、32検疫所のうち25検疫所は、放射能測定器が1台あるか、なにも検査機器を置いていない検疫所なのである。この1996年からの5年間に事態は改善されているのだろうか。2001年に1万6369件の輸入届出がなされ、33万tの輸入食品が輸入されている仙台検疫所には、1995年時点で4台のガスクロマトグラフ、 2台の高速液体クロマトグラフが配置され、検査が行われていた。

しかし、1997年には、仙台検疫所に配置されていた4台のガスクロマトグラフと2台の高速液体クロマトグラフが撤去され、東京検疫所や成田空港検疫所に配置されたのである。そして、北海道、東北地方の検疫所からは、放射能測定器を除いて検査機器がなくなったのである。検査機器がないか放射能測定器しか置いていない25検疫所の2001年の輸入届出件数は、45万3890件にもなっており、全体の輸入届出件数の28.2%にも及んでいる。また、輸入重量ベースで見ると、この25検疫所を通過した輸入食品の重量は、1557万8848tにも及び、全検疫所を通過した総重量3250万7833tの47.9%に相当する。結局、重量ベースで見ると、輸入食品の約半分は、検査機器がないか放射能測定器しか置いていない検疫所を通じて輸入されているのである。

では、一体なぜこのようなことになっているのであろうか。それは、後ほど詳述するが政府が国による水際の輸入食品の検査体制(国が輸入食品の安全性を検査し、検査結果がでるまでは通関をさせない)を放棄したからなのである。今、検疫所がやっている検査は、モニタリング検査といって、検査結果がでる前に通関を認める検査で、水際の検査ではないのである。

そのため、それぞれの検疫所での検査体制を確立するのではなく、モニタリング検査用のサンプルを横浜と神戸の検疫所に集中された検査センターに送り、そこで検査する検査センター集中方式に体制を変えたからである。検査センター集中方式といえば、聞こえがいいが、横浜や神戸の検査センターも、人員や体制が充実しているとはとても言えない状況である。私は、西日本最大の検査センター的役割を果たしている神戸検疫所を視察する機会を先日得たが、そこで目にしたものは、残留抗生物質や残留抗菌剤の検査を行う職員5人が、朝から昼までかかって肉や魚介類の冷凍ブロックをハンマーで叩いて検査試料を作る作業であった。その作業でもうへとへとになり、午後から検査といってもすぐとりかかれないという状況であった。センター化された検査センターでも人手不足の状況なのである。





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