日本は1人1日の摂取カロリーが2644kcalと世界と比較してダントツ
そして、日本は、そのような輸入食料依存の下で飽食ともいわれる食生活を維持し、国民1人当たり1日の供給熱量は2644kcalに及び、それは酒類を含むと2798kcalにもなる。世界の人口に占める割合が2%の国家が、人口比率の3.75倍の割合で食料を、同じく12倍の割合で水産物を輸入することによって成り立っているのである。
EU(欧州連合)諸国や米国、カナダ、オーストラリアなどのいわゆる「先進国」の国民1人当たりの供給熱量は、1日3000kcalを超えているが、これらの国は、食料自給率が100%を超えるか70~80%の食料自給率を維持しており、世界の食料供給に負荷を与えてはいない。
発達した資本主義国では食料自給率40%の日本が、唯一世界の食料供給に負荷を与えている国となっているのである。しかし、このような世界の食料を「先進国」と称する1国に集中するようなことが、現在および将来にわたって許容されるような世界の食料事情なのだろうか。
2.FAOが示した世界料事情と今後の見通し
FAO(国連食糧農業機関)は、2000年7月に、世界の食料・栄養。農業に関する将来動向についての最新の評価を、中間報告という形で発表した。そこには、現在の世界の食料事情と2015年および2030年の世界の食料事情の見通しが明らかにされている。
FAOの最新の評価では、1995年から97年の3年の平均で世界の慢性的栄養不足人口は、 7億9000万人とされており、 1人当たり1日の食料消費が2200kcal未満の国は33カ国にのぼっている(FAOは飢餓人口を算定する摂取カロリーを1人1日当たり2200kcalとしている)。
また、世界の慢性的栄養不足人口は、この5年間で5000万人減少した。ただ、1996年の世界食料サミットでは、 8億4000万人いた慢性的栄養不足人口を2015年までに半減させることを決めたが、今回の中間報告では、「世界食料サミットの目標の達成進ちょく度は、これまで相当緩慢であって、現在の進ちょく率によると、2015年までに目標は達成されないであろう」と、目標達成が不可能であることを明らかにした。
現在、 1人当たり食料消費が2200kcal未満の国は33カ国とされており、該当する主な国々は、北朝鮮、中央アフリカ共和国、マダガスカル、 リベリア、マラウイ、カメルーン、ソマリア、ブルンジ、ハイチ、バングラデシュ、ボリビア、カンボジア、ラオス、エチオピア、エリトリア、コンゴ民主共和国、モザンビーク、タンザニア、ケニア、アフガニスタンなどである。
食料消費で最も重要なカロリー源である穀物は、現在の世界の消費・生産量は、18億4000万t(ワードバランスシートの消費統計・精米ベース)である。日本は穀類を1国で2764万t輸入しているが、開発途上国(97カ国)は、 1億700万tの穀物を純輸入している。これらの国の灌漑が、将来的に困難に直面する可能性が強まる中で、開発途上国の穀物の純輸入量は、2015年には2億t、2030年には、 2億7000万tになると予測されている。
世界の食料生産状況について見ていきたい。人類の生存にとって最も重要な穀物生産の収穫面積は、全世界で2000年は、6億7010万haあり、その生産量は20億5379万tとなっている。その国別生産量は、第1位の中国4億733万t以下、米国3億4385万t、インド2億3421万t、EU(加盟15カ国)2億1767万tなどとなっており、この3カ国とEUで全世界の穀物生産量の58.5%と、約6割を占めている。
穀物などの品目別の2000年の生産量を見ると、世界の食料生産の特徴がより浮かび上がってくる。トウモロコシは、世界の生産数量は5億9354万tである。国別生産量は、米国2億5320万t、中国1億617万t、ブラジル3187万t、
メキシコ1798万t、アルゼンチン1681万t、フランス1646万t、インド1150万t、南アフリカ1094万t、イタリア1020万tとなっているが、この9カ国で全トウモロコシ生産量の80%を占めることになる。特に米国は1国で全世界のトウモロコシ生産量の42%を生産している。
大豆は、特定国への生産集中がより顕著である。大豆の世界生産量は、 1億6140万tであるが、国別生産量は、米国が7537万t、ブラジル3273万t、アルゼンチン2020万t、中国1530万tとこの4カ国で全大豆生産量の80%を占めることになり、特に米国は1国で全世界の大豆生産量の46%を占めている。小麦は、世界生産量は5億8392万tである。国別生産量は、EU1億569万t、中国9964万t、インド7560万t、米国6051万t、ロシア3600万t、カナダ2680万t、オーストラリア2475万tで、EUと6カ国で全世界の小麦生産量の73%を占めている。
このように、世界の食料生産は、米国、EU、中国、インド、カナダ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチンなどの少数の国や地域に依存・集中しているのである。地球温暖化問題と少数の国に世界の食料生産を依存する危険性少数の国に世界の食料生産を依存することの危険性は、多くの論者から指摘されている。現在世界的に問題となっている地球温暖化は、その影響のひとつとして、異常気象現象をあげている。
最高/最低気温の上昇や降水強度の増加、中緯度内陸部の渇水、熱帯サイクロンの強大化などが引き起こされるとされており、その異常気象現象はもうすでに始まっている。1988年には米国で大干ばつがおこり、93年には米国中西部の水、94年にはオーストラリアでの干ばつと中国での干ばつと洪水、95年には米国で低温・長雨、高温などが続いている。
異常気象の結果、88年には、米国で史上初めて生産量が消費量を下回り、大量の穀物在庫が減少に転じ、穀物需給が引き締まった。92年に生産量が史上最高になり穀物需給が緩和していたにもかかわらず、93年から95年の一連の異常気象の結果、96年の穀物の国際価格は、過去最高水準にまで高騰した。
2001年、米国政府は地球温暖化による影響調査を行い、報告書を発表した。その報告書で、農業に対する影響調査を明らかにしている。この報告書では、21世紀中は、地球温暖化によって米国の穀物生産が危険にさらされることはなく、国家レベルでは、穀物生産は増加するだろうとしている。
しかし、米国の農業生産の最大の問題は、害虫であり、温暖化の進行によって農薬の使用量は増加するとしている。農薬の使用量の増加は、 トウモロコシで10~ 20%、ジャガイモで5~ 15%、大豆や綿花で2~ 5%としている。さらに、報告書は、米国農業に対する温暖化の影響は、気候変動と極端な出来事次第だとして、強烈な干ばつや洪水の頻発といった変化や暴風雨の被害が重大な結果をもたらすだろうとしている。
世界的な水不足は、日本にどのような影響を与えるのだろうか。それを考えるためには、日本がどのように世界の水資源に依存しているかを見る必要がある。それを明らかにした研究が、2002年7月に発表された。
その研究は、総合地球環境学研究所・沖大幹助教授による「世界の水危機、日本の水問題」である。この研究は、1990年代に提案された仮想水(バーチャルウォーター)、すなわち国際的な穀物の輸出入はその生育に必要な水を輸出入しているのと同じであるという考え方に基づいて、日本の仮想水(バーチャルウォーター)の輸出入を計算したものである(沖助教授が東京大学生産技術研究所のグループと試算)。沖助教授のホームページに掲載された発表文書からその研究内容を引用してみる。
「今回、沖グループでは、農業生産のプロセスに立ち返り、『日本で灌漑により生育したとしたら、米、小麦、とうもろこし、大豆1kgあたりどのくらいの水資源が必要とされるか』を体系的に推計しました……
これによると、C4植物で光合成効率の良いとうもろこしでも粒のみを考えると重さあたり1800倍、精製後の小麦では2100倍、精米後の米では約3700倍の水を利用している勘定になりました。
日本が年間に輸入している小麦やとうもろこし、大豆の量にこれらの水資源原単位をかけて推計すると、アメリカやカナダ、オーストラリアや南米から年間400億トン程度の仮想水が輸入されていることがわかりました」。農作物の輸入だけで400億tの水の輸入に相当するという驚くべき内容である。