目次

食品添加物の安全性評価食品添加物の安全性評価のあり方
食品添加物は毎日欠かさず摂取する食品に含まれるものだけに、その生体への影響についての関心は高い。食品添加物は、病人、老人、子どもも含めほとんどすべてのヒトが少量ではあっても多種類を長期にわたって摂取することから、一定の期間に限って使用される医薬品とは異なった性格をもっており、これを考慮した評価が必要である。

1.安全性試験
1995年の食品衛生法の一部改正に伴い食品添加物の指定基準が見直された。
特に安全性試験については大きく変更され、従来から急性毒性試験、亜急性毒性試験、慢性毒性試験として採用されていた項目が、28日・90日および1年間反復投与毒性試験となり、長期にわたって摂取されることを重視した項目が取り入れられている。わが国においては、食品添加物を新たに申請する場合、資料の提出が義務づけられている。

毒性試験は、安全な摂取量の最大量を求めるために行われるもので、その試験の過程で現れてくる毒性は、必ずしも実用の範囲内でヒトが摂取した場合に現れる毒性を示しているものではない。毒性は、摂取量吸収性、蓄積性、組織親和性、代謝などさまざまな薬理学的性質をもって論じられるべきものである。

28日および90日反復投与毒性試験は、従来の亜急性毒性試験に相当するもので、マウス、ラット、イヌなどを用いて行われる。実験動物を種々の濃度の食品添加物を添加した飼料で28日あるいは90日間飼育し、中毒症状を観察する。
1年間反復投与毒性試験は、従来の慢性毒性試験に相当するもので、実験動物を種々の濃度の食品添加物を添加した飼料で1年間飼育し、
①一般状態体重、摂餌量
②血液検査
③尿検査
④眼科学的検査
⑤その他の機能検査
⑥剖検および病理組織学的検査

などが行われる。
繁殖試験は、あらかじめ一定期間食品添加物を投与した実験動物の雌雄を交配させ生殖能力や妊娠、哺育など繁殖に及ぼす影響を調べ、さらに次世代に及ぶ繁殖への影響を調べる。
催奇形性試験は、食品添加物を添加した飼料で飼育された実験動物の出産直後の胎児について奇形の有無を調べる。

発癌性試験は、1年間反復投与毒性試験と同様の方法で行われ、一般症状や死亡率を観察するとともに、腫瘍の発生の有無について観察する。発癌性試験を行うためには多くの実験動物と長い期間を要するため、これに先立ち変異原性試験などの短期スクリーニング法によって発癌性を予測することが一般に行われている。

抗原性試験は、実験動物の皮膚などに食品添加物を塗布し、血中の抗体産生の有無を調べ、アレルギーとの関連を調べる。
変異原性試験は、細胞の遺伝子(DNA)や染色体への影響を調べる試験で、発癌性試験に比べ安価で、しかも短期間で実施できることから発癌性物質のスクリーニングに利用される。
一般薬理試験は、食品添加物を投与した実験動物の血圧、体温などさまざまな薬理学的な作用を観察し、食品添加物の毒性や副作用を調べる。

体内動態に関する試験は、食品添加物が体内に入って「吸収(Absorption)」されてから、各種組織に「分布(Distribution)」し、「代謝(Metabolism)」され、尿および糞便中に「排泄Excretion)」されるまでの挙動を調べる。通常、これら四つの過程の頭文字からADME(アドメ)と呼ばれている。

2.人類と食べ物の安全性
人間が生きるためには、栄養素の補給として何らかの食べ物を摂取しなければならない。数百万年と言われる人類のこれまでの歴史は、食べ物の確保の歴史と言ってもよい。しかも食べ物となり得るのは、基本的にはこの地球上の生き物すなわち有機物である。人類は長い間、動物や植物を狩猟や採取により日々追い求めてきた。

もちろん、人間が求めるものは摂食可能なものであり、食べ物の確保という営みの中で常に有害なものとの区分けが求められてきた。例えばある種のフグの卵巣やキノコはきわめて強力な毒性を有するが、これらの識別力は、おそらく幾多の犠牲者を伴って長年培われてきた経験を踏まえ先祖から脈々として伝承されてきた知識として身につけてきた。
また、食べ物は変質・変敗という有機物特有の経時変化特性を示す。

物理・化学・生物学的作用によるものである。人間は、食べ物に接する時、これらの物性変化にも配慮することが求められる。特に微生物の作用のうち、微生物そのものが人間にとって有害なもの、あるいは有害な物質を産出する微生物に対しては要注意となる。

人間は、これら自分たちにとって相応しくない現象すなわち「腐敗」というような現象に対しても五感による検査方法(官能検査)により識別してきた。もちろん、官能検査でも検出できないほどのきわめて少量の微生物や毒素により犠牲者が出ることもあり得る。例えばボツリヌス菌の毒素のように1グラムで数千万~数億人を死に至らせるようなものは、これら五感による検出法では不可能である。こういう経験等では予知不可能な危害によって「運悪く」犠牲になったとしても、それは自然の摂理ということで納得してきた。

すなわち、食べ物は人間にとってベネフイットとして求めるものではあるが、本来少なからずリスクを伴うものであることも認識する必要があり、また我々の祖先はこれらのことを長い間の経験により体得することにより、自然生態系の中で、有害微生物や自然毒などのリスクと上手な付き合い方をしてきたともいえる。


3.毒物及び劇物取締法(毒劇法)
背景
毒物および劇物の急性毒性による事故の発生や健康への影響が著しくなり、毒物および劇物の製造、輸入、取扱いを規制する必要から、毒物と劇物の危険防止に重点を置き、それまでの毒物劇物営業取締法を廃止して、昭和25(1950)年12月に毒物及び劇物取締法が制定された。医薬品と医薬部外品を除いた毒物・劇物およびそれらの製剤を対象にして、保健衛生上の見地から、その毒性の程度に応じて、特定毒物、毒物、劇物に指定し、その取扱いを規制している。

目的
毒物および劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とする。(法1)

定義
(1)「毒物」:医薬品と医薬部外品以外のものをいう。黄燐、四アルキル鉛、シアン化水素、水銀、ニコチン、砒素、弗化水素等28品目(法2・1)
(2)「劇物」:医薬品と医薬部外品以外のものをいう。アンモニア、塩化水素、過酸化水素、過酸化ナトリウム、カリウム、クレゾール、クロロホルム、四塩化炭素、重クロム酸、修酸、臭素、硝酸、水酸化ナトリウム、ナトリウム、メタノール、沃素、硫酸、等94品目(法2・2)
(3)「特定毒物」:毒物であって、四アルキル鉛等10品目(法2・3)
(4)「特定毒物研究者」:学術研究のため特定毒物を製造し、もしくは使用することができる者として都道府県知事の許可を受けた者をいう。(法3の2・1)
(5)「特定毒物使用者」:特定毒物を使用することができる者として品目ごとに政令で指定する者をいう。(法3の2・3、政令1)


4.食品の一般的取り扱いの良否の判断指標
生乳中の細菌数は牛乳の品質に直接関係するので、生産農家から集められた生乳は、集乳場、ミルクプラントなどで直ちに総菌数が検査される。総菌数は牛乳中の生菌および死菌のすべての数を示すものであり、牛乳の生産工程のすべての良否を判断する資料となっている。

缶詰食品においても同様であり、加熱殺菌後の缶詰の内容物の総菌数を調べることは、缶詰製造時の食品材料の鮮度、微生物学的汚染度を推定する資料となる。
食品の品質を劣化させる大きな要因は微生物の増殖にある。乳酸菌とか酵母のように食品加工上では有用菌とされるものでも、日常の食品においてはむしろ有害的に働く場合が多い。一般にいう腐敗菌はもとより、乳酸菌、酵母なども極力検出しようとして開発された標準寒天培地によって、35~37度、48時間好気培養後得られた菌数を細菌数といい、食品から生産に至るすべての段階における衛生的な取り扱いを判断する指標とされる。なお、食品衛生検査指針では生菌数あるいは一般生菌数として表現している。



このページを見た人は、下記のページも注目しています!